もむだだ。ころされたって、いわないといったらいわないのだ」
と、さけびました。
そのこえをきくと、高一は、はっとおもいました。そのこえにききおぼえがあったのです。
「あっ、お父さまだっ」
高一のお父さまは、ご用のため、とおくへお出かけになったはずなのに、なぜこんなほら穴のなかに、しばられているのでしょうか。高一もびっくりしましたがマルもおどろいてわんわんとほえました。さあたいへんです。
「だれだっ」
あやしい男たちは、いっせいにたって、高一のかくれていた方へむかってきました。高一はあぶなくなりました。マルは一生けんめいで、ほえています。
いまはこれまでとおもい、高一はそのすきに紙きれに、はしりがきをすると、腰にさげていた伝書鳩のあしにつけ、ぱっとはなしました。鳩は、くらやみのほら穴をぬけておもてへとびます。だが、つづいてとび出したのは、おそろしい電気鳩!
つがいの鳩
ほら穴の中の、おそろしいかくとうをあとにして、高一の手紙をもった伝書鳩第一号は、さっとおもてへとびだしました。
くわっくわっと鉄のくちばしをならしながら、そのあとをおいかけるのは、おそろしい電気鳩です。
伝書鳩第一号も、前に電気鳩にひどい目にあっていたので、わざと森や林の中をぬけたり、きゅうに下にまいおりたりなどして、一生けんめいににげて行きました。
しかし、おそろしい電気鳩のくちばしをのがれることはできず、つばさはきずつけられ、羽根はぬけ、一方の目はつきやぶられてしまいました。それでも、伝書鳩第一号はがまんをして、とうとう自分の鳩舎にたどりつきました。
まっさきにそれを見つけたのは、るすをしていた高一の妹ミドリです。
「あらあら、鳩があんなになって……」
ミドリは、はしりよって鳩舎の上に、つばさをひろげたままたおれている第一号を、そっとおろして、胸にかかえてやりました。
そのとき上の方で、くわっくわっとあやしいこえがきこえました。
第一号はそれをきくと、くるしい中からくうくうとないて、ミドリにあぶないから用心なさいとしらせました。ミドリがすぐに家の方にかけださなかったら、電気鳩のために、どんなひどいけがをしたかわからないのです。
「ミドリちゃん。なにをさわいでいるの」
軍服すがたの良太《りょうた》おじさんが顔をだしました。
血にそまった鳩のあしから、高一のはしりがきした紙きれがはずされました。
「これはたいへんだ」
と、良太おじさんは、顔色をかえていいました。
「ミドリちゃんのお父さまが、あやしい一団につかまっているそうだ。さっそく憲兵隊へしらせなきゃいかん」
憲兵軍曹である良太おじさんは、じつはミドリのお父さまが、ある大事なご用をひきうけて旅にでたのに、いつまでたってもかえってこないのをしんぱいして、ちょうどいま、たずねてきたところなのでした。さっそく、けがをした伝書鳩第一号のもちかえった紙きれをもって、憲兵隊へとどけでたのでまもなく一隊の洋服すがたの憲兵が、トラックにのってミドリの家にのりつけました。
さあ、なにごとがはじまるのでしょうか。
憲兵さんの話によると、なんでも、すごい電気鳩をつかう外国のスパイがいりこみ、なにか、しきりにわるいことをたくらんでいるとは、わかっていたが、そのスパイ団がどこにいるのかわからなくてこまっていたのです。ところがいま、高一少年のおかげで、ほら穴のひみつがしれたので、大よろこびです。
「さあ、電気鳩退治だ」
と、憲兵さんは力をこめていいました。
「電気鳩さえ退治してしまえば、スパイ団も水をはなれた魚のようによわってしまうだろう」
ミドリは、それよりもお父さまと高一兄さんとを、早くたすけてください、とたのみました。
いよいよあやしいほら穴にむかうことになって、憲兵さんたちは、こまった顔をしました。そのほら穴へは、どう行けばいいのでしょう。
そこへ、おりよく愛犬マルが、足をひきながらかえってきました。
「ああマルか……。兄ちゃんは?」
ミドリは、すぐ庭にとびだしてみましたが、高一のすがたはどこにもみえません。マルだけが、ほら穴からぬけてきたものと見えます。
マルという、いい道案内ができたので、憲兵さんたちはよろこびいさんででかけました。
ところが山の中にはいった時は、日がまったくくれてしまいました。そのうえマルがどこかに行ってしまったので、憲兵さんたちは、どうしてよいかわからなくなってしまいました。
その時です。上の方でくわっくわっというなきごえがしたとおもうと、一つの光るものが、さっととんできました。おそろしい電気鳩があらわれたのです。
ぬけ穴
おそろしいスパイ団のため、山の中のほら穴に、とりこになっている高一少年とお父さまは、今どうしているので
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