いだよ」
「えっ電気鳩? 電気鳩ってなあに?」
 そこで高一はミドリに、さっきの青い鳩にさわろうとすると、ゆびがぴりぴりしびれたことを話してきかせました。それで電気鳩、電気鳩と名をつけたんですが、ほんとうに電気鳩が、うちの鳩をころしたのでしょうか。まったく、きずひとつないのに鳩は死んでいるのです。
「ようし、一つ工夫をして、あの鳩をつかまえてやろう」
 そのつぎの日の夕方、高一とミドリとが見はっていると、はたして、その電気鳩が空からおりてきました。お家の九羽の鳩は大さわぎして、屋根の方ににげてしまいました。しかし鳩舎の上には、まだ一羽の鳩がじっととまっていました。
 電気鳩はひらりと飛びおりて、そのじっとしている鳩の方へ足をひきながらちかづきました。
 すると、どうでしょう。かちっと音がして、電気鳩は高一のしかけたわなに、足をはさまれてしまいました。しかし、電気鳩はたいへんな力をだして、そのまま空へまいあがりました。足にながい赤い紙テープを目じるしにして、電気鳩をおいかけてゆきましたが、ざんねんにも見うしなってしまいました。
 それにひるまず、つぎの日、高一はまたべつの工夫をして、まちかまえていました。
 その夕方、やはり電気鳩は下りてきました。そして、昨日とおなじように、鳩舎の上におりて、よちよちと二、三歩あるいたかとおもうと、たちまち、かちっと音がして、電気鳩は足をはさまれました。が、やっぱりにげてしまいました。そのとき鳩の足には、長い赤い紙テープのほかに、小さなガラスびんがさかさまにつりさがっていました。びんの口からは、とてもいやなにおいがしました。
 電気鳩が飛びだしたと見るや、高一は愛犬マルという、よくはなのきく犬をつれて、いっしょに電気鳩のあとをおいかけました。電気鳩は昨日とおなじように村ざかいの山の方にとんでゆきます。赤い紙テープをながくひきながら、ぐんぐんとんでいって、やがて、すがたがみえなくなりました。
 でも、高一は、べつにあわてるようすもなく、しきりに、はなをならして走るマルのあとについて、どんどん山の中にわけいりました。
 先にたって走っていたマルは、そのうちに人の出入りができるほどのほら穴の前までくると、ほら穴の入口の草をしきりにかいで、急にうごかなくなりました。高一は、
「うむ、このほら穴にはいったのだな」
 と、ほら穴をにらんで、おもわずひとりごとをいいました。


   穴のなかの人


 だれもしらないことですが、飛行列車をついらくさせたのは、電気鳩のしわざでありました。高一は、そんなこととはしらず、ただ鳩舎へおりた電気鳩が、だいじな伝書鳩をころしたのにちがいないとおもって、愛犬マルといっしょに、この山のおくのほら穴の前まで、電気鳩をついせきしてきたのでありました。
 マルは、しきりとはなをならして、ほら穴のなかをにらんでいます。
「マル、しっかりたのむよ」
 高一のうまい工夫とマルのてがらとで、電気鳩は、このほら穴のなかにはいったことがわかりましたから、つぎは、なかにはいって電気鳩をうまくつかまえることです。
 高一は、穴のなかにはいった鳩などはわけなくつかまえられるものとおもっていました。それで、いさましくも高一はマルをつれて、まっくらなほら穴のなかにずんずんはいって行きました。用心のために、もってきた懐中電灯がきみのわるいほら穴の中をてらして、とても力づよいのです。しかし、かんじんの電気鳩は、どこまでふかくはいったものか、いっこう、そのすがたが見えません。
「へんだなあ。どこへかくれちまったんだろう」
 高一はマルの頭をなでながら、立ちどまりました。
 その時でした。マルがひくくうなりました。高一のさとい耳は、この時、たれか人の話しごえが、ほら穴のもっとおくの方から、ぼそぼそきこえてくるのをききつけました。「おや、こんなほら穴のなかに、たれか人間がいるよ」
 高一はふしぎにおもい、マルの首をおさえながら、しずかに、ほら穴のおくの方にちかづいて行きますと、とつぜん、
「さあ、どうしてもいわねえというのだな」
 と、どなるこえがきこえました。
 高一がおどろいておくをのぞくと、そこには、めずらしく電灯などがとぼっていて、五、六人のあらくれ男が、まるいかたちにすわっています。そして、そのまんなかに、一人の男がしばられていました。
 かわいそうなのは、そのしばられた男です。身うごきもできないばかりか、おおぜいのあらくれ男から、ひどい目にあっています。
 ちょうど、高一のみている方からは、そのゆわえられた男はうしろむきになっていたので、だれだかよくわかりませんでした。もし、高一にその男の顔が見えたなら、どんなにおどろいたことでしょう。その時、しばられていた男は、きっと顔をあげると、
「いくらきいて
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