しょうか。
 ミドリのたのみをきいて、良太おじさんは一隊の洋服すがたの憲兵をひきつれ、高一の愛犬マルを道案内に、その山の中にわけいりました。ところが途中でマルのすがたがみえなくなり、スパイ団のほら穴へゆく道が、わからなくてこまっているところへ、光まばゆい電気鳩がとんできたのです。
「ふせっ」
 と、良太おじさんはさけびました。
「こんなおそろしい電気鳩を、生かしておいてはあぶない。軍曹どの、こいつを私にうたせてください」
 と、一人の憲兵がピストルをだしました。
「まあ、まてっ」
 と、良太おじさんは、いそいでそれをとめ、
「そんなことよりも、電気鳩がどこへゆくか、あとをつけてゆく方が大事なんだ。さあ、そこの二人は、電気鳩をすぐおいかけろ」
 さすがに良太おじさんです。あわてずさわがず、二人に電気鳩のあとをおわせました。
 そのとき、べつの方角から、わんわんと犬のほえるこえがきこえてきました。マルです。マルがほえているのです。良太おじさんは、むっくりおき、
「よし、のこった者は、自分についてこっちへこい」
 スパイ団のほら穴は、いよいよ近くにあることがわかりました。
 良太おじさんは、いさましくも憲兵隊のまっさきにたって、草をわけて走ります。おりから、ちょうどむこうの山から月がでました。
「こんなところにほら穴があったぞ。さあ、このなかへ突撃だっ」
 というが早いか、良太おじさんは懐中電灯を片手に、さっとほら穴へとびこみました。みんなもそれにつづきました。
 すると、べつの方角から、ぽんぽんという銃声がおこりました。
「うわあっ、憲兵だっ」
 と、よろめきでてくるスパイ団は、そこにも良太おじさんたちのすがたをみて、二度びっくり。
「スパイどもめ! こうなったら、ふくろのねずみもおなじことだ。さあ降参しないかっ」
 と、おどりかかる憲兵隊に、さすがのスパイたちも、あれよあれよとさわいでいるうちに、しばりあげられてしまいました。
「あ、良太おじさん――」
 と、ほら穴のおくから、こえをかける者がありました。
「おお、そういうこえは……」
 と、良太おじさんがかけつけてみると、それはまさしく高一でありました。かわいそうに、太いなわでぐるぐるまきにされ、牢《ろう》のようななかにころがされていました。
 なわをとこうとすると、高一は頭をふって、おくをむき、
「お父さまがいるはずです。はやく助けて……」
「ばんざあい」
 と、大きなこえがおこりました。どうなったかと心配していた高一少年や、高一のお父さまで、お国のためはたらいている秋山技師の二人を助けだすことができたし、そのうえスパイ団のわる者も、おおぜいつかまえることができたのですから、大手がらでした。
「へんだなあ――」
 良太おじさんが、首をかしげました。
「なにがへんなのですか」
「だって、電気鳩が、このほら穴にとびこむところをみたのに、いまこうしてさがしてみてもいないじゃないか」
「おかしいね。これはどうやら、ほかにぬけ道があるらしいぞ」


   にげた団長


「おじさん。お父さまをくるしめていたスパイ団の団長がみえないよ」
 と、高一少年がさけびました。
「なに団長が……。うむ、いよいよぬけ道があることにきまった。さあ、さがすんだ」
 そのとき愛犬マルは、なにおもったか耳をぴんとたて、かたわらのおおきい岩のうえにとびあがり、そのむこうにすがたをけしました。まもなく、わんわんとマルのほえるこえ!
「それ、ぬけ穴だっ」
 と、みなのものも岩をとびこえてみると、なるほど下につづいたぬけ道がありました。いそいでいってみると、ぴかりと光るもの――電気鳩です。マルにおいかけられています。
 しかも、そのそばには、団長が黒い箱をせおってにげてゆきます。
「おいまてっ――」
 と良太おじさんたちは、一生けんめいにおいかけましたが、ぬけ穴を出たところが、がけの下でした。スパイの団長は、そこにこしらえてあった、なわばしごをつたってがけの上にあがり、そして、そのなわばしごを上にひきあげてしまったものですから、いくら強い憲兵さんたちでも、がけをのぼることができません。
「ちえっ、ざんねんだ。もうひといきでつかまるところだったのに」
 憲兵さんたちは、たいへんくやしがりました。高一もざんねんですが、はしごがなければのぼれないところだからしかたがありません。
 こうして、電気鳩と、黒い箱をせおったスパイの団長とは、どこかへにげてしまいました。
 その後、電気鳩はどこへいったものか、いっこうにみかけませんでした。
 高一の鳩たちは、またもとのように小屋のまわりに、たのしくあそぶようになりました。
 高一のお父さまも安心して、あらためて、大事なご用の旅におでかけになりました。
 そのうちに、鎮守《ちんじゅ
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