》さまの秋祭の日がきました。いろいろの見世物《みせもの》やおもちゃの店がでて、たいへんなにぎわいです。高一は、ミドリをさそっておまいりにゆきました。
やしろの前にならんだ二人は、ふといつなのついた鈴を、がらがらとふってお父さまが、ぶじにおかえりになるようおいのりをしました。それがすんでから、高一は、ミドリにいいました。
「ねえ、見世物のほうにいってみようよ」
「兄ちゃん、あれがおもしろそうよ」
と、ミドリがゆびさしたのは、たくさんの見世物のなかにまじって、「ぽっぽ座」と、そめだした赤や青の旗をたてた小屋です。
「さあいらっしゃい。人間よりかしこい鳩の曲芸です。世界一のかしこい鳩です。坊ちゃん嬢ちゃん、さあさあおはやく……」
と黒めがねをかけた男が、客をよんでいます。
鳩ときいては、鳩のすきな二人は見たくてたまりません。二人はいそいではいりました。
はいってみると小屋の中はがらんとしていました。見物人もほんのすこしです。
「へんだなあ」
とおもったのですが、そのとき印度《インド》服をきた鳩つかいが、金ぴかの鳥かごを手にさげて、ぶたいにあらわれました。
「さあ、お目をとめてごらんください。これが世界一のかしこい鳩です」
鳩つかいは、長いむちでかごをたたきながら、二人の前にさしだしました。かごの中には、つばさの色がうす青色で、金のすじが二本とおっている鳩が、じっとこっちをみていました。
(あっ、電気鳩そっくりだ)
と、高一は目をみはりました。
「さあ、これからこの鳩にお嬢さんのおとしや、名前までもあてさせましょう。お嬢さん、どうぞこちらへあがって下さい」
「だめだよ、ミドリ」
と、高一はそれをとめました。しかし、鳩つかいは知らぬ顔をして、ミドリをぶたいにひっぱりあげ、みょうなだいにのせました。
魔術師
鎮守さまのお祭は、いま、おみこしがかえってきたので、村の人たちは、その方に気をとられて、わっわっというさわぎのさいちゅうです。
こっちは、あまり見物人のはいっていない、電気鳩によくにた世界一のかしこい鳩をつかう、見世物小屋のなかです。印度《インド》服をきた鳩つかいに手をとられて、ミドリは、そのぶたいのうえにあがりましたから、兄の高一はなんだか、胸さわぎがしてなりません。
「さあ、鳩さん。お嬢さんのおとしは?」
と鳩つかいは、耳を鳩のそばへ近づけました。
すると鳩は、鳩つかいの耳のなかを、くちばしでもって、ちょっちょっとつきました。
「ははあ、そうですか」
と、鳩つかいは、さもわかったような顔をして、見物人の方に向い、
「鳩さんが申しますには、このお嬢さんのおとしは十歳だそうです。お嬢さんあたりましたか」
ミドリは、ほんとうに自分のとしをあてられたので、おどろいてしまいました。見物人は、手をぱちぱちたたいて鳩をほめました。
「さあ、そのつぎはお嬢さんのお名前ですが、鳩さん、これはなかなかむずかしいが、あてられますか」
鳩つかいは、また耳を鳩にちかづけました。
すると鳩は、また鳩つかいの耳のなかを、くちばしでもって、ちょっちょっとつきました。
「ああそうですか。そこにぶらさがっている万国旗の右から三番目のいろ――というと……」
と、鳩つかいは、ぶたいにはりまわしてある旗をみまわしました。右から三番目は、ブラジルの旗でした。
「ああ、ブラジルの旗ですね。この旗のいろは青ですね。すると青子さんかしら」
すると、見物人はこえをそろえて笑いだしました。青子なんてめずらしい名だからです。
「青子はおかしい。もっと、はっきりおしえて下さい。なに、青ではない緑だというのですか。なるほど、ミドリさん。ミドリさんとは、じつにかわいいお名前ですね」
「あたったわ」
なんというかしこい鳩なのでしょうと、ミドリは、かんしんしてしまいました。見物人は、また、手をたたいて鳩をほめました。
見物席では兄の高一だけが、おこったような顔をして、鳩つかいをにらみつけています。
「さあさあ、そこでついでにもうひとつ、この鳩をつかってすばらしい魔術をごらんに入れましょう」
といって印度人は、おくの方に合図をいたしました。するとおくから、こどものからだが入るくらいの大きさの、美しい箱をかついできました。その箱は二つでした。それをぶたいにならべました。さあ、これからどんなことがはじまるのでしょうか。
鳩つかいは、まず、ひとつの箱のなかに、金色のすじの入った鳩を、かごごと入れました。
それから、こんどはミドリの手をとって、
「さあお嬢さんは、こっちの箱へ入ってくださいね。なんのこわいことがありましょう」
ミドリが箱のなかに入ると、鳩つかいは急ににこにこして、
「まず、箱のふたをしめます」
と、両方の箱のふたをかたんとし
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