め、
「さあ、たしかにこっちの箱には、世界一のかしこい鳩がはいり、こっちの箱には、かわいいお嬢さんがはいりました。ところが、私が気合《きあい》をかけますと、ふしぎなことがおこります」
 えいっと、気合をかけて、ミドリのはいっていた箱のふたに手をかけました。


   きえた妹


 鳩つかいはにやりと笑って、ミドリのはいっていた方の箱のふたをあけました。
「あっ」
 と、高一の口から、おどろきのこえがとびだしました。なぜといって、たしかにミドリがはいったにちがいないその箱のふたをとってみると、そこに、ミドリのすがたがないのです。そして、そのかわり金色のすじのある鳩がはいっているではありませんか。
「おやおやこれはふしぎ」
 と、鳩つかいはなおも、うすきみわるく笑いながら、
「お嬢さんが鳩にばけてしまいました。では、鳩の方は、なににばけているでしょうか」
 といってもう一つの箱のふたをとると、あらふしぎ、箱の中はからっぽです!
 ミドリは、いったいどこへいったのでしょうか。
「おじさん、ミドリを早くもとのようにかえしておくれよ」
 と、高一は、ぶたいにとびあがっていいました。
「あなた、なぜ見世物のじゃまをしますか」
「だって、ミドリをかくしたりして……」
「まだ、じゃまをしますね」
 というと、鳩つかいは、いそいでぶたいの幕をしめさせ、高一を、見物席から見えないようにしてしまいました。そして、いきなり鳩のかごの戸をあけました。そのとたん、鳩は、すごいいきおいで、高一めがけてとびかかりました。まるで電気鳩そっくりです。
「あっ」
 と、おもったときはもうおそく、高一は鳩にとびつかれて気をうしなってしまいました。
 ミドリも高一も、まったくひどい目にあったものです。世界一のかしこい鳩だというが、それは、あのおそろしい電気鳩だったのです。鳩つかいにばけていたのは、にくいスパイ団長でありました。
 高一は、ひやりとするつめたい風のおかげで、はじめて気がつきました。そこは、あのにぎやかに、かざりたてた見世物小屋のなかではなく、うすぐらい物おきのようなところでありました。
 はっ、とおもっておきあがろうとして気がつきました。両手はうしろにまわされ、胸も腹もふといなわで、ぐるぐるまきにされていました。高一は、はがみをして、なわから手をぬこうとしたがだめです。
 いったい、ここは、どこなのでしょうか。
「ミドリちゃんは、どうしたんだろう。やはり、あのわる者につかまっているんだろう。かわいそうに」
 高一はミドリのことをおもうと、どうしてこのままじっとしていられましょう。しかし、なわはかたくむすばれて、とけそうもありません。
 くやしなみだをぽろぽろこぼしているところへ、そとに足音がきこえ、こっちへ近づいてきます。なに者がやってくるのでしょう。
 すると、高いところにあいていた窓に、一つの顔があらわれました。それは少年の顔です。みたこともない顔ですが、大きな口をあいてよだれをながしていました。
 ポンちゃんというその少年は、わる者の仲間ですから、とても、高一をたすけてくれません。
 高一は、なにをおもいついたか、いつも腰にさげている鳩をよぶ笛を、ポンちゃんにあげるから、もっておゆきといいました。すると、ポンちゃんは大よろこびで、屋根のやぶれ目から、柱つたいにするするとおりてきて、高一の腰についている笛をとると、また、そとにでてゆきました。
 ほう、ほう、ほう。
 笛は、そとでさかんになっています。ポンちゃんがおもしろがってふいているのです。
 すると、それから一時間ほどたって、窓のそとに、とつぜん、たくさんの鳩の羽ばたきがきこえてきました。高一はにっこりとしました。


   ハグロとアシガラ


 世界一のかしこい鳩をつかう鳩つかいとは、まっかなうそで、これこそ、おそろしいスパイ団の団長がばけていたのでありました。高一は、体をぐるぐるまきにされ、穴ぐらのなかにおしこめられてしまって、もう、ミドリを助けるどころではなくなりました。そこで、かんがえたあげく、もっていた笛を、わる者仲間のポンちゃんにやりますと、ポンちゃんはよろこんで、それを、ほう、ほう、ほうとさかんにふきならしました。そのうちに穴ぐらのあかり窓のところにきこえる羽ばたき!
 高一は、ポンちゃんに笛を吹かせてから、この羽ばたきの音を、どんなにか、まっていたのです。
「しめた! ぼくの家の鳩がきたぞ」
 きゅうに、にこにこ顔になった高一は、あかり窓の下にすりよって、ぴいぴいと口笛をふきならしました。
 すると、くう、くう、くうとなきながら、ばたばたと羽ばたきして穴ぐらにとびこんできたのは、まさしく、高一のかわいがっていたハグロとアシガラという二羽の伝書鳩でした。
 鳩は、高一の肩にとま
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