って、くう、くうとなきたてます。鳩にも、主人の一大事がわかっていたのでしょう。
 高一は、かわいい鳩に、なつかしげにほおずりをしてやりました。
 しかし、いつまでもそうしていられないことを、よく知っていた高一は、体をかがめて、自分のズボンのうらのきれを口でくわえると、べりべりとやぶりました。そして、そのきれを、口うつしにハグロにくわえさせると、ぴいぴいぴぴいと口笛をふきました。
 その、ぴいぴいぴぴいという口笛は、
「はやくお家におかえりなさい」
 という鳩の号令だったのです。ですから、ズボンのきれをくわえたハグロは、さっきはいったばかりのあかり窓から、いさましく外にとびだし、高一の家へかえってゆきました。
 ちょうど、家の前に高一の愛犬マルがいるのをみると、ハグロはその前に、くわえてきたズボンのきれをおとし、マルを案内するかのように、さきにたってとびました。
 高一のいれられている穴ぐらの入口のところで、がちゃがちゃとかぎの音がし、いきなり入口の四角なあげぶたがあいて、にくいスパイ団長がはいってきました。
「やい小僧、いいところへつれてってやるから、このなかへはいれ」
 といって、手下のはこんできた、たるをゆびさしました。
「いやだ。それよりもぼくの妹をどうしたんだ。はやく、ぼくをミドリにあわせてくれ」
「ミドリはお前より一足さきに船にのりこんでらあ。むこうへいってからあわせてやる」
「うむ、さては、妹もたるづめにされたのか」
「いや、たるにいれるのは、お前みたいなあばれん坊だけなんだ。さあはいれ」
 高一は力およばず、とうとうたるにいれられました。


   どこへいく?


 高一のおしこめられた、たるは、まもなく、外にかつぎだされました。いったい、どこへはこばれてゆくのでしょうか。まっくらなたるのなかで、高一は、気が気でありません。
 くう、くう、くう。
 高一のおなかのへんで、ないているものがあります。それはもう一羽の鳩、アシガラでありました。高一がわる者のため、たるにいれられるすこしまえ、わずかのすきをうかがって、アシガラを上着の下へいれてかくしておいたのです。
 そのうちに、たるは、どすんとかたいものの上におかれました。それから、つぎつぎに、どすんどすんと、ほかのたるがおかれるようすです。
 やがて、がたんという音とともに、たるをのせたトラックは走りだしました。
「どこへつれられてゆくんだろう。ミドリは、どうしているんだろう」
 と、高一は、たるのなかにゆられながら、それを考えていました。
 一|粁《キロ》も車が走ったかとおもうころ、車のうえがさわがしくなりました。
「おや、あの犬は、この車をおっかけてくるんじゃないか」
「うん、小僧がいるのをかぎつけたんだ」
「めんどうだ。ピストルでうってしまえ」
「まてっ、ピストルの音をきかれたらどうするのだ。石ころをなげつけてやれ」
 えいえいと、石ころをなげるこえがします。
 わわわわ、わんわん、とはげしい犬のなきごえが、車をおってきます。
「あっ、あのこえはマルじゃないか」
 忠犬マルは、一生けんめいに、高一をさらってゆくトラックをおいかけてくるのでありました。
 どうして、それを知ったのでしょう。そのわけは、鳩のハグロが、マルを案内して、ここまでおいかけてきたのです。
 わわわわ、わんわん。
「石ころじゃだめだ。電気鳩をだそう」
「よし、電気鳩だ」
 スパイ団長は、ついにおそろしい電気鳩をぱっとはなしました。
 高一は、それをきいておどろきました。
 きゃ、きゃんきゃんきゃん。
 まもなくマルのかなしいさけびごえがきこえます。あわれ忠犬マルも、電気鳩にやられたようすです。
 高一はたるの中で、歯をくいしばってざんねんがりました。しかし、電気鳩にかかっては、マルはどうすることもできますまい。
「これでいい。ああ、ほねをおらせおった」
 と、これはわる者のためいきです。
 トラックは、四、五時間も走りつづけたのち、港につきました。
 たるはそこで船のそこへつみかえられました。それは、外国の貨物船のなかでした。
 その夜、高一ははじめて、すこし手のいましめのなわをゆるめられ、そして、ごはんがわりに、五つ六つのりんごがたるのなかになげこまれました。なんというひどいことでしょう。
 わる者は、また、たるのふたをしっかりしめて、でていってしまいました。
 ごとごとときかいのなる音がして、汽船は港をでてゆくようすです。
「どこへゆくのだろう。そして、ぼくやミドリをさらっていってどうする気なんだろう」
 高一は、なんとかしてミドリにめぐりあいたいと、それを思いつづけました。
 すると、にわかにはげしいくつ音がして、船ぞこへ大勢の人がかけおりてくるようすです。
「おい、早くさがせさがせ
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