はまあ仲のいい方で、そして二人はカフェ・ネオンに於ける正《まさ》しく男子現業員の全部で、そして気の毒にも一階受持ちの女給八人、二階受持ちの女給七人、合計十五人の娘子軍《ろうしぐん》に対し、名実共に頭が上らなかったのである。
 こうした風景が、カフェ・ネオンにおいて表面は案外平凡にくりかえされているうちに、突如として大惨劇《だいさんげき》の黒雲《くろくも》が、この家の上に舞い下《くだ》った。それは月も氷《こお》るという大寒《たいかん》が、ミシミシと音をたてて廂《ひさし》の上を渡ってゆく二月のはじめの夜中の出来ごとだった。カフェ・ネオンの三階の寝室で、春ちゃんが惨殺《ざんさつ》されてしまったのである。その寝室には春ちゃんの外《ほか》に四人の女給が、思い思いの方向に枕を置いて寝ていたのであるが、不思議なことに、彼女達は、春ちゃんの殺されたことを朝の十一時まで全く知らなかったのである。丁度《ちょうど》その時刻のすこし前に給仕長の圭さんが出勤して来て、階下のコック室《べや》に独寝《ひとりね》をしていた吉公を叩《たた》き起すと、その勢いで三階の娘子軍の寝室までかけ上ったところ、蒲団をまくられても寝
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