女給一同は、第二の惨劇以来というものは、カフェ・ネオンに宿泊するのをいやがって、みな別荘の方へ行って寝ることにしていた。ただ気づよいコックの吉公《きちこう》だけは、このカフェを無人《ぶにん》にも出来まいというので、依然として階下のコック室《べや》に泊っていた。しかし室の内部からしんばりをかったりして真昼《まひる》女給たちから小心《しょうしん》を嗤《わら》われたものだ。その夜、お千代は当番で、最後まで店にのこっていたものらしい。勿論《もちろん》彼女は別荘へ帰ってゆくに違いなかったのだが、とうとう其の夜は別荘に姿を見せなかった。事件以来、他へ泊りに行くこともちょいちょいあるので大《たい》して問題にされなかったが、朝になって女給たちが、昨夜《ゆうべ》の疲れを拭《ぬぐ》われて起き出でた頃には、お千代が昨夜かえって来なかったことについて不吉な問題が一同の間に燃え拡がって行った。
「あら、すうちゃんが見えないじゃないの」
と叫んだ娘がいる。
「昨夜ここへ泊ったわよ、ほら、その蒲団があの人のじゃないの。お小用《こよう》にでもいったんじゃないかしら、だけどこうなると、一々気味がわるいわねえ」
鈴江
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