りょく》にも打ち勝つことができないであろう。実際彼等のあるものから見れば殺人なんて、それこそ赤ン坊の手をねじるより楽なことなのだ。しかし彼等のそうした科学的殺人事件が、あまり世間に報導《ほうどう》せられないわけは、一つには彼等は殺人の容易《ようい》なることは知っていても、殺人の興味がないし、その味をも知らないことに原因する。また二つにはその方法処置が完全で、犯行の全然判らない点もあるし、たとえ判ったにしても犯人たるの証拠が全然残されていないことにも原因するのだ。……
いや、莫迦《ばか》に「論文《エッセイ》」を述べたてちまったが、実は、この論文の要旨《ようし》は、僕の頭の中に浮びあがる以前に、これから話そうという「電気恐怖病患者《でんききょうふびょうかんじゃ》」の岡安巳太郎《おかやすみたろう》君が述べたてたものなんで、その聴手《ききて》だった僕は、爾来《じらい》大いに共鳴《きょうめい》し、この論説の普及《ふきゅう》につとめているわけなんだが、全くその岡安巳太郎という男は、科学的殺人が便宜《べんぎ》になった現代に相応《ふさわ》しい一つの存在だった。岡安はいまも言うとおり、今日人殺しなんて
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