ないでちょうだいね」とやさしく睨《にら》んだ。一体、鈴江という女は、春ちゃんの死後そのいいひと[#「いいひと」に傍点]だった岡安と馬鹿に仲よくなったようだ。この女は、半玉《はんぎょく》みたいな外観を呈しているかと思うと、年増女の言うような口をきくことがあった。恐らく顔や身体の割には、ずいぶん年齢《とし》をとっているのじゃないかと思われた。今のところ、岡安も春ちゃんのことは、夢のように忘れちまったらしく、鈴江と肝胆相照《かんたんあいてら》している様子は、側《はた》から見ていて此のような社会の出来ごととしても余り気持のよいことじゃなかったのである。
「すうちゃん。けさ、ふうちゃんが殺された時間は、いつ頃だったの」
「さあ、よくはわからないけど、二時と三時との間だという話よ。どうしてサ」
「じゃ二時二十分――たしかに、あれだ」と岡安は急に眼を大きく見開いたまま、ふるえる細い手を額《ひたい》の上へ持って行った。「すうちゃん、このカフェは呪《のろ》われているんだよ、君も早くほかへ棲《すみ》かえをするといい。僕は見たんだ。たしかに此の眼で見たんだ、しかも時刻は正《まさ》に二時二十分――丁度《ちょう
前へ
次へ
全35ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング