えた。
この訊問《じんもん》が終ったあとで、係官の間に、こんな会話が行われるのを聞いた。
「ふみ子の首の万創膏《ばんそうこう》をとって見たが、穴が相当深くあいていた。沃度丁幾《ヨジウム・チンキ》をつけてあるが、おできのあとともすこしちがうような気がするんだが、大学の鑑定事項の中へ、穴ぼこが意味する病名を指摘するように書き加えて置いて呉れ給え」
「不思議ですな、前の春江の場合にも、やっぱり首のところに万創膏が小さく貼ってあったじゃありませんか?」
「なに、それは本当か。――ウーンすると、ことによると犯行に関係ある穴ぼこかも知れない。だがそうなるとあの万創膏は犯人が貼付《ちょうふ》したことになるわけだ。さあ、失敗《しま》った。あの万創膏を捨ててしまった。あれを顕微鏡にかければ、たとえ犯人が手袋をはめてあれを貼りつけたものとしても、ゴムがペタペタしているために、手袋の繊維をすくなくとも数十本は喰《く》わえこんでいる筈だ、それから手懸《てがか》りが出るかも知れなかったのだ。莫迦《ばか》なことをしてしまった」係長のなげきは、なかなか一と通りではないようにみえた。
もう一つの面白い事実は、ふみ
前へ
次へ
全35ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング