思い、側《そば》によってよく改めて見ると、春江の身体は無く寝衣《ねまき》や枕が身体の代りに入っていたと述べた。これは警視庁にとって唯一の参考材料となった。春江はどこかへ行って一時半には寝床にいなかった。春江はその時刻、どこでなにをしていたろう。
 春江の客や情人《じょうじん》の探索が、虱《しらみ》つぶしに調べられて行った。岡安巳太郎や、岩田の京ぼん[#「ぼん」に傍点]も、調べられた一人だった。これも自宅に於て睡眠中だったそうで、格別材料になるようなものが発見せられなかった。事件は文字どおりに、迷宮《めいきゅう》へ陥《おちい》って行ったのである。
 春江の初《しょ》七|日《か》が来た。その夜、カフェ・ネオンの三階に於て、またまた惨劇が演ぜられた。不幸な籤《くじ》を引きあてたのはふみ子という例の年増《としま》女給だった。殺害状況は、前の春ちゃんの惨殺《ざんさつ》の時のと、まるで写真にとったように同じ状況を再演した。強《し》いて相違の個所を挙げるならば、こんなことになる。
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一 同室に就寝していた女給は、前回と同じ顔触れの鈴江、お千代、とし子の三人と
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