ころ、高度の物質文明は、人類をほとんど発狂点に近いまでに増長させていた。
祝勝日
桜の花は、もう散りつくした。
それに代って、樹々の梢《こずえ》に、うつくしい若葉が萌《も》え出《い》で、高き香《か》を放ちはじめた。陽《ひ》の光が若葉を透《とお》して、あざやかな緑色の中空をつくる。
イネ州は、いまや初夏をむかえんとしている。
紺碧《こんぺき》の空に、真赤なアカグマ国の旗がひるがえっている鉄筋コンクリート建の、背はそう高くないけれど、思い思いの形をしたビルディングが、倉庫の中に、いろいろな形の函《はこ》を置き並べたように、立ち並んでいる。一般に、その形は、四角か、或は円筒を転がして半分地中に埋《うず》めたような恰好《かっこう》であった。そしてどの屋上にも、アカグマ国の国旗は、ひらひらとはためいていた。
遠くで、楽の音《ね》がきこえる。
その楽の音をききつけて、建物の間を、ぞろぞろと、うすぎたない身なりをした男女の群衆が通っていく。
「あっちだ、あっちだ。なにが始まったんだろうな、あの音楽は……」
「お前、ぼけちゃいけないね。じゃあ、こっちから聞くが、なぜお前はきょう
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