でなりません」
「なに、八四二区か。ふむ、それは本当に油断がならないぞ。敵機が着陸したら、直《すぐ》に毒瓦斯《どくガス》部隊で取り囲んで、敵を殲滅《せんめつ》してしまえ」
「は」
 ラック大将の命令一下、マイカ防衛兵団は、全力をあげて、かの大胆な侵入部隊に立ち向った。
 毒瓦斯部隊が、もちろん先頭に出て、盛んに瓦斯弾を、敵のまわりに撃ちこんだ。また飛行機を飛ばして、空中からも、靡爛瓦斯《びらんガス》を撒《ま》き散らした。こうすることによって、まるで、なめくじの上に、塩の山を築いたようなもので、敵は全く進退|谷《きわ》まり、そしてあと四、五分のうちに殲滅されてしまうものと思われ、キンギン国軍は、やっと愁眉《しゅうび》をひらいたのであった。
 ラック大将は、その後の快報を、待ち佗《わび》ていた。もう快報の到着する頃であると思うのに、前線からは、何の便りもなかった。大将は、一旦《いったん》捨てた心配を、またまた取り戻さねばならぬようなこととなった。
 それから間もなく、前線からは、戦況報告が入ってきた。待ちに待った報告であった。だがその報告の内容は、キンギン国にとって、あまり香《かんば》しいものではなかった。
“――敵兵は、毒瓦斯に包まれつつ、平然として、陣地構築らしきことを継続しつつあり。尚《なお》敵兵は、いずれも堅固なる甲冑《かっちゅう》を着て居って、何《いず》れの国籍の兵なるや、判断しがたし”
「甲冑を着して居って、国籍不明? ふーむ、これは奇怪千万!」
 ラック大将は、呻《うな》った。


   大団円

 潜水飛行艦隊は、キンギン国都マイカ市上の八四二区の地上に集結して、盛んに機械を組立てていた。
 その機械というのは、ばらばらの部分に分けて、各艦が積んでいたもので今それを一つに組立てているのであった。見る見るうちに、それは大きな発電機のような形になっていった。
 そこに立ち働いている兵士たちの姿をみれば、甲胃を着ているという報告があったとおり、いずれも重い深海の潜水服のようなものを着ていた。それは、アカグマ国の第一岬要塞へ攻めこんだあの謎の部隊と、全く同一の服装をしていたのである。
 そういえば、彼等の乗って来た潜水飛行艦の胴には、骸骨《がいこつ》のマークがついている。それは、第一岬要塞の戦闘がすんで、アカグマ国軍が敗退したとき要塞の上高く掲げられた敵軍の旗と同じマークのものであった。
 一体この不思議なる軍隊は、何国に属しているのであろうか。
 彼等は、毒瓦斯《どくガス》たちこめる原頭《げんとう》に立って、いささかもひるむところなく、例の大きな機械の組立を急いだ。
 その機械は、間もなく組立てられ終ったものの如くであった。何が始まるか、この機械によって?
 そのとき、きーんと高い音をたてて、機械の軸が廻りだした。その軸は、見る見るうちに地中深く伸びていった。この真下には、マイカ地下大要塞の心臓に相当する大発電所があるのであった。その発電所|目懸《めが》けて、この怪しい長軸は、ぐんぐん伸びていくのであった。
 ラック大将が、このおどろくべき事態に気がついたときは、例の長軸は、発電所の天井を、もう一息で刺し貫きそうなところまで迫っていたのである。
「た、たいへん。マイカ大要塞の、あらゆる動力が停止するぞ。交通も通信も換気も、戦闘も一切《いっさい》が停《とま》っちまうぞ! こんな莫迦《ばか》げた話があるだろうか」
 ラック大将は、恥も外聞も忘れて、大声で怒鳴りつつ部屋中を歩きまわった。
「そうだ、媾話《こうわ》だ。媾話を提議しろ。降服でもいいぞ、相手が承知をしないなら……。とにかく、ここで、発電所をやられてしまったら、たいへんだ。マイカ大要塞が、博覧会の見世物《みせもの》同然に落ちてしまうんだ。そうなると、太青洋の覇王《はおう》どころのさわぎではない。キンギン国は四等国に下ってしまうぞ」
 ラック大将は、自分の一存で、かの骸骨旗軍に、降服を申出《もうしい》でた。
 すると、敵の司令官から、返書が来て“われは、貴軍の降服|申出《もうしで》に応ずるであろう。依ってマイカ要塞の心臓は、只今より当方が監視するから、直《すぐ》に貴軍の兵員を、発電所より去らしめられたい”
 と、本文が終って、そのうしろに、司令官の署名があった。その署名を一目見たラック大将は、あっと声をあげたまま、愕きのあまり、床に尻餠《しりもち》をついてしまったのであった。
 その署名というのは!
“イネ建国軍キンギン派遣隊司令官カチグリ大佐!”
 イネ建国軍! いつの間に、そんなものが出来たのであろうか。アカグマ国に亡ぼされた筈のイネ国軍がどこにどう、再起をはかっていたのであろうか。
 その謎は、やがて解《とけ》た。
 イネ帝国が亡びると同時に、国軍の一部は、悲憤の
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