刻々に証明されてきたようである。というのは、敵機は、急にスピードを失って、一機また一機、降下を始めたのであった。
「ああ、敵機撃墜だ。わが防空陣地の勝利だ!」
 と、地上にわずかに砲口を見せている高射砲部隊は喊声《かんせい》をあげた。
 地底深き司令部には、ラック大将が、テレビジョンによって、この戦闘の模様を、手に汗を握って観戦していたが、このとき、高射砲部隊からの報告が届いた。
“――わが高射砲部隊は、敵機五十八機を撃墜せり。尚《なお》引続き猛射中”
 だが、ラック大将は、別に嬉《うれ》しそうな顔もせず、傍の参謀に話しかけた。
「おい、高射砲部隊は、いい気になって、撃墜報告をよこしたが、それにしては敵機の様子がどうもへんではないか」
「はあ、閣下には、御不審な点がありますか」
「うん。なぜといって、敵機は、火焔《かえん》に包まれているわけでもなく、むしろ悠々と地上へ降下姿勢をとっているといった方が、相応《ふさ》わしいではないか」
「なるほど」
「第一、わしには、このような強力なる空襲部隊が、急にどこから現われたのか、その辺の謎が解《とけ》なくて、気持がわるいのだ。太青洋上に配置したわが監視哨は、いずれも優秀を誇る近代警備をもって、これまで、いかなる時にも、ちゃんと仮装敵機の発見に成功している。これがわがマイカ要塞空襲のわずか二分前まで、敵機襲来を報告してきた者は只一人もいないのだからなあ」
 と、ラック大将は、すこぶる腑《ふ》に落ちない面持《おももち》だった。


   覆面《ふくめん》の敵

 キンギン国の心臓にも譬《たとえ》ていいマイカ大要塞を望んで、怪しい敵の空襲部隊は、悠々と地上に舞下った。
 その頃になって、キンギン国の防空砲火が、実は敵機に対し、何の損害も与えていないことが、はっきりした。まるで、防弾衣を着た敵兵に、ピストルの弾を、どんどん浴びせかけたようなものである。下から打ち上げた高射砲弾は、奇怪にもすべて敵の超重爆撃機の機体から跳ねかえされていたのであった。後で分ったことであるが、敵機にはいずれも強磁力を利用した鉄材反発装置というものが備えてあって、地上から舞上るキンギン国側の砲弾は、機体に近づくとすべて反発されてしまったのである。そうとは知らないラック大将以下は、ただ不思議なことだと、首をひねるばかりであった。
 そのうちに、只《ただ》一本、貴重な報告が入ってきた。それは、伝書鳩が持ってきたものだった。その報告文には、次のような文句があった。
“――本日十六時、本監視哨船の前方一|哩《マイル》のところに於て、海面に波立つや、突然海面下より大型潜水艦とおぼしき艦艇現われ艦首を波上より高く空に向けたと見たる刹那《せつな》、該艦の両舷《りょうげん》より、するすると金色の翼が伸び、瞬時にして爆音を発すると共に、空中に舞上りたり。その姿を、改めて望めば、それは既に潜水艦にあらで、超重爆撃機なり。潜水飛行艦と称すべきものと思わる。司令機と思わるる一機に引続き、海面より新《あらた》に飛び出したる潜水飛行艦隊の数は、凡《およ》そ百六、七十台に及べり。本船は、これを無電にて、至急報告せんとせるも、空電|俄《にわか》に増加し本部との連絡不可能につき、已《や》むなく鳩便《はとびん》を以て報告す”
 潜水飛行艦隊!
 ラック大将以下は、このおどろくべき報告に接して、さっと顔色をかえた。
 この報告により、ラック大将の謎とした事情はようやく分りかけたのであった。
 キンギン国の遠征潜水艦隊が途中において爆破撃沈されてのち、反《かえ》って、敵の潜水艦隊数百隻が、キンギン国の領海に向けて攻めこんできたが、この潜水艦こそ、只の潜水艦ではなかったのだ。実は、おそるべき性能をもった潜水飛行艦だったのである。
 監視哨からの無電報告が、一つとして、本部に届かなかったのは、鳩便がつたえてきたとおり敵軍が無電通信を妨害するため空中|擾乱《じょうらん》を起す電波を発明したのにちがいない。
 ラック大将は、もうその場に居たたまらないという風に、椅子から立ち上った。
「こう易々《やすやす》と、敵軍のため、自国領土内へ侵入されるなんて、予想もしなかったことだ。わがスパイ局の連中は、一体なにをしていたのだろう。アカグマ国に、こうした優秀な艦艇がありそしてわがキンギン国へ攻めこむほどの積極作戦があるとは、これまでに一度も報告に接していない。全く、皆、なっていない!」
 このとき、一人の参謀が、大将の前に、すすみ出て、
「閣下。監視哨からの電話報告が入りました。敵機は、いよいよ着陸を始めたそうであります。その地点は、八四二区です。その真下には、このマイカ大要塞の発電所があるのですが、敵は、それを考えに入れているのであるかどうか、判明しませんが、とにかく気がかり
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