波のうえに、恐るべき殺人電気を載せたのだ。それにちがいない。だから、女史からの無電をきいていた者は、長官をはじめとし、遠方で聞いていた幕僚の悉くが、その怪電気にあたって即死してしまったのだ」
「女史からの電波に、殺人電気を載せるなんて、アカグマ国の奴等《やつら》は、人か鬼かですねえ」
「人か鬼かといっても、今更《いまさら》仕方がない。敵となれば、已《や》むを得ないことだ。とにかく、今重態のリウサン参謀が、もし一命を助かれば、何もかも分るだろう」
只《ただ》一人の生残者リウサン参謀の快癒《かいゆ》を待つまでもなく、怪電気は、太青洋の空を越えて、一瞬間に、ラヂウム元帥と、十数名の優秀なる幕僚たちを、殺害してしまったのである。アカグマ国側の奇襲は大成功をおさめ、それに反してキンギン国側は、大犠牲を払ったのである。
快速潜水艦隊
キンギン国では、ラヂウム元帥に代り、アルゴン大将が、戦争次官のままで、アカグマ国攻略軍を指揮することとなった。彼は、まだ白面の青年だった。
このアルゴン大将は、どっちかといえば、幸運児でもあった。彼は、軍人であるうえに、科学者でもあった。彼は、当時大尉であったが、ロケットを試作し、大胆にもそれに乗り込むと月世界をめがけて地球を飛び出し、ついに、月のまわりを一周して、帰還したという大冒険の成功者だった。しかも彼は、独特の設計によって、その往復に五ヶ月を費したばかりであった。キンギン国の大統領は、彼アルゴン大尉を招き、その成功を絶讃《ぜっさん》すると共に一躍大将に昇任させた。「実力ある者は、どんな高い官職にものぼることが出来る。年齢や経歴などを問うものではない」というのが、キンギン国の歴代の大統領の信念であった。こうした例は、この国内にたいへん多く、そういういずれも若々しい能力者によって、この国の国防力や文化はこの二十年間に急速な発展を遂げ[#不自然な途切れと1行アキは、ママ]
アルゴン大将は、月世界からの帰還後、しばらく空軍研究所長についていたが、ごく最近、戦争次官に新補されたのであった。とたんに、アカグマ国との間に捲き起ったこの大危機事件であった。彼は、たいへんなはりきり様で、大動員を下令するとともに、一夜のうちに、新しい作戦計画一千一号を書き上げてしまったのである。
作戦計画一千一号!
アルゴン大将は、即戦即決主義だった。彼は、これまでのいくつかの戦争において、いつも敗戦の原因となった漸進《ぜんしん》主義や打診主義を排し、全国軍の重攻撃兵器を一つに集めて、猛烈なる大攻撃にうって出る主義だった。戦争に勝つこと以外のことを考えてはならないと、彼は思っていた。いささかでも、敗れる恐れのある戦争は、決してしない主義だった。敵が十の力を出すときには、こっちは少くとも五十の力を向けて、絶対的に圧倒するのだ。そのために百の力を持っていながらも、後の機会のことを思って、九十の力を貯《たくわ》え、十の力を出すようなやり方を極端に排撃するのだ。百の力があるものなら、百の力のすべてを一度に用いるのであった。そして一度で、敵を再び立つことの出来ないほどに蹂躙《じゅうりん》してしまう。そうする方が、味方の損害は、極めて微々たる程度に喰い留ることが出来る。戦争を行って、しかも戦後に兵力のうえで依然として世界を睨みつけるためには、この戦法に勝るものはない。
そのような信念の下に、アルゴン大将は、凡《およ》そ太青洋を進攻できる軍団と兵器との全部を動員し、それを集結させ、そしてアカグマ国のイネ州に向けることにした。
大空には、飛行軍団を六|箇《こ》、海上には、一千三百隻の艦艇を、更に水中には、キンギン国とっておきの快速潜水艦隊を配置し、一挙にアカグマ国をぶっ壊す作戦であった。文字どおり、空中、海上、海底の三方よりの立体戦であった。
「全軍、出動用意!」
アルゴン大将は、官邸のマイクを通じ、すべての根拠地に対して、号令した。
やがて、用意よしの返事が大将のところへきた。そこで大将は、
「全軍、進め!」
と、出発を命じた。それこそ、キンギン国建国以来の歴史的な瞬間だった。なぜなれば、そのようなキンギン国の戦闘部隊の豪華さは、このときを境として、再び見られなかったからである。
全軍は、直線的に、真西へ向けて、進発した。それは丁度《ちょうど》洋上に夕闇が下りたばかりの頃だった。太青洋踏破は、正二日半で完了する予定だった。
アルゴン大将の、特に信頼をおいていたのは、二百隻から成る快速潜水艦隊であった。大将は、艦隊最高司令官スイギン提督から刻々報告をこっちへ送らせていた。
「只今、二十時。わが潜水艦隊は、○○地区を潜航中。全艦隊、異常なし」
そういう報告が入ると、アルゴン大尉は、ふうッと、鯨のような息をついて、
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