岸には、艦隊が出発命令を待っているそうじゃ」
元帥は、そういって、血の通っていない首の列に、ずーっと、目を走らせた。
殺人電気
「元帥閣下。その情報は、もちろん、信ずべきでありましょうな」
と、第七番の首が叫んだ。リウサン参謀の声だった。
「もちろん、信じて、さしつかえない。ゴールド大使は、優秀なる外交官であり、且《か》つスパイだ。彼女は、さっき、彼女の義眼に仕掛けてある精巧な小型無電機を用いて、こっちへ話しかけてきたが、間もなく、もう一度、諸君の前に、なにか報告をしてくる筈《はず》じゃ」
ラヂウム元帥は、そこで言葉を切って、机の引出しをあけた。そして、箱の中から、チューインガムを引張り出すと、それを口の中に放りこんで、にちゃにちゃやりだした。
「長官、ゴールド大使からの電話です」
副官の声だ。いよいよ、再び女史の小型無電機が、報告を伝えてくるらしい。
「よし、こっちへ線をつなげ」
と、ラヂウム元帥は、命令した。
「はい、只今、つなぎます」
副官の声が引込むと、入れ替りに、ゴールド大使の、鼻にかかったなまめかしい声が聞えてきた。
「ああ、もしもし。こっちは、ゴールド大使です。スターベア大総督は、ついに第一次から第十六次までの動員を完了しました。渡洋連合艦隊は、あと三時間たてば、軍港を離れるそうです……」
「一体、彼奴《きゃつ》らは、どこの国と戦うつもりなのですかね。本当に、われわれを対手《あいて》にするつもりですかね」
と、ラヂウム元帥は、問いかえした。
「それは、もちろん、そうなのです。この無電は、秘密方式のものですから、なにをいっても大丈夫でしょうから、いいますが、この前もスターベア大総督は、太青洋の彼方《かなた》――といいますと、わが祖国、キンギン国のことなんですが、その太青洋の彼方に、別荘を作りたい。そして、一週間はこっちで暮し、次の一週間は、そっちで暮し、太青洋を、わが植民地の湖水として、眺めたいなどと、申して居りましたわよ」
「そうですか。そいつは、聞き捨てならぬ話ですわい。太青洋の伝統を無視して、湖水にするつもりだなんて、許しておけない暴言だ。よろしい。スターベアが、そういう気なら、戦争の責任は、悉《ことごと》く彼等にあるものというべきです。そういうことなら、こっちも遠慮なく、戦うことができて、勝手がよろしい」
と、元帥は、憤慨して、
「さあ、それではゴールド大使。キンギン国内における軍隊の動きについて、貴下の集められた情勢を、われわれに詳しく話していただきたい」
「はい、では申上げましょう。まずわが密偵の一人は……」
と、ゴールド女史は、長々しい報告を喋りはじめた。
元帥は、チューインガムを、くちゃくちゃ噛《か》みつつ、女史の報告に耳を傾けていたが、それから間もなく、彼はどうしたものか、うんといって、両手で虚空をつかむと、その場に悶絶《もんぜつ》してしまった。
不思議な死に様《よう》だった!
元帥の心臓は、ぱたりと停《とま》り、身体は、どんどん冷えていった。
その頃、この室内には、さらに奇怪なことが起った。それは、元帥が、さっきから目の前に睨んでいたたくさんの将軍や参謀たちの作り首が、まるでうしろから槌《つち》で殴《なぐ》りつけたように、階段の上で、ごとごとばたんばたんと、しきりに前に倒れ、そして転がるのであった。そして五分とたたない間に、只一つ、リウサン参謀の作り首だけが、きちんと立って、残っているだけで、他の作り首は、悉く倒れてしまったではないか。
一体どうしたのであろう。
警鈴《ベル》が、じゃんじゃん鳴りだしたのは、それから更に、五分ほど経《へ》て後のことだった。ゴールド女史のラジオがぷつんと切れた。
暫らくして扉が、荒々しく開かれ、そこへ飛びこんで来たのは数人の陸軍将校だった。
「あっ、たいへん。長官が死んでしまわれた」
「おお、やっぱり。いけなかったか」
将校たちは、顔色をかえて、老元帥の死体を取り巻いた。
「ひどいことをやりやがったな。かねて、こういう危険があるかもしれないと思い、余《よ》は、注意を願うよう、上申しておいたのに」
「私も、たびたび長官に、申上げたんですがなあ」
そういって、舌打ちをしたのは、長官の副官だった。
「もう、とりかえしがつかない。このうえは、弔合戦《とむらいがっせん》あるばかりだ。ゴールド大使には、しばらく秘密にして置け」
暗涙をのんで、そういったのは、中で一番肩章の立派なアルゴン大将だった。彼は、数分前新任されたばかりの戦争次官だった。
「やっぱり、あれにやられたんですかなあ」
と、別の将校が、次官を見上げながら、いった。
「そうだ。あれに違いない。つまり、アカグマ国軍の電波隊が、ゴールド女史の秘密無電を利用し、女史の電
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