ンを夢中で外したことを覺えてゐる。
その翌日になつた。三日目だ。
甲板へ出て見ると風が生温かくぽかぽかして來る。まさしく陽春四月ごろの陽氣だ。直射日光が暑くて額が汗ばむ。
丁度海の色は藍色に變つて美しかつた。
午後はとてもやりきれないので冬シャツをたうとう脱いでしまつた。さうして服は冬の背廣だが、下着のシャツをクレップの薄いものに換へた。
やがてその日も暮れた。今夜は部屋にスチームは通らない。それで丁度好い氣持※[#判読不可、103−下−10]ぐつすり眠つた。
夜が明けた。四日目だ。
氣温はぐんぐん上つて來る。正午の氣温は二十四度。もちろんオーヴァーなぞの用はない。
甲板をポケットに手を突込んでぶらぶら歩くと襟元を過ぎる風が凉しい。
夜は急に寢ぐるしくなつた。まるで蒸風呂に入つたやうだ。尤も夜は燈火管制を嚴重にするので、舷窓はぴつしやり締め切り、入口も戸を締めるから、どこからも空氣の脱けて行くところがない。おまけにエンジンルームからの熱が傳つて來る。
ベッドに上つたが、全身汗だらけになつて度々目が醒める。
その夜も明けた。五日目だ。
朝案外凉しい。船醫の話では明け方にスコールが通つたのでかう凉しいのだとの話であつた。もうスコールが來るやうなところまで來たかとちよつと嬉しくなつた。
食堂へ出て見ると扇風機がぶんぶん廻り始めた。それに吹かれながら、好い氣持になる。
内地を離れてから五日目だが、もうすつかり夏の氣温だ。
長いズボンを穿いてゐるのが苦しくてならない、つひに今日よりゴルフパンツを引張り出して半ズボンの姿になる。
その日も暮れた。やがて六日目がやつて來た。誰の姿もすつかり夏の服裝である。中に一人、冬服で來た男があつた。いくら服を脱いで上はシャツ一枚になつてみても、長い冬のズボン下があるので、下からむんむん蒸す。苦しくて敵はんと朝から云つてゐたが、やがて晝飯の時にサロンへ出て來た彼の姿は俄然半ズボンになつてをつた。ところがその半ズボンの形が少しをかしい。「到頭半ズボンをどこかで手に入れて來たね」と云へば、彼は天井を向いて「わはつはつ」と笑ふ。傍に仲間がゐて、「先生到頭暑さに參つて、冬のズボンを膝の上でちよん切つたんですよ」と云つて、これ亦大きな聲で笑ふ。私も笑つた。この先生が冬ズボンに鋏を入れる時の顏付を想像してをかしくてたまらなか
前へ
次へ
全15ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング