尤《もっと》も、わしはスパイ禍《か》をさけることなら、上海でもって、相当修業して来ておりますわい」
「それを伺《うかが》って、安心しましたわい」
 折から高射砲は、撃《う》ち方《かた》やめとなり、往来はようやく安心できる状態となった。そこで瘠躯鶴《そうくつる》の如きカーボン卿は、樽のかげから外に出て、一応頭上を見上げたうえで、樽のかげの金博士の手を取って、引張り出したのであった。
「さあ、今のうちに急いで参りましょう」
「はて、余はどこへ連れていかれるのじゃな」
「行先は、今も申したように、スパイを警戒いたして申せませぬ。しかし、向うへ到着すれば、そこが何処だかお分りになりましょう。グローブ・リーダーの巻三には、『ロンドン見物』という標題《ひょうだい》の下《もと》に、写真入りでちゃんと詳《くわ》しく出て居ります場所です」
「ありゃ、行先はロンドンですかい」
「ロンドン? あっ、それをどうして御存知《ごぞんじ》ですか。博士は、読心術《どくしんじゅつ》を心得て居らるるか、それともスパイ学校を卒業せられたかの、どっちかですなあ」
「あほらしい。お前さんが今、ロンドン見物の標題で云々《うんぬん
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