イたちは、完全にこの大広間から追い出されていた。しかもこの料理は、五百パーセントの闇値段《やみねだん》で集められた豪華な料理であって、これ全《すべ》て、遠来《えんらい》の金博士――いや、イギリス政府及び軍部が今は命の綱と頼む新兵器発明王の金博士に対する最高の饗応《きょうおう》であったのである。
「さて、早速《さっそく》ではあるが、金博士に相談にのっていただくことにする」
 と、座長格の世界戦争軍総指揮官ゴンゴラ大将が口を開いた。
「なるべくなら、この御馳走を全部頂戴してののちに願いたいものじゃが」
 金博士は残念そうにいう。
「いや、事が事とて、ぐずぐずして居れないのです」
 と、総指揮官ゴンゴラ大将は、かまわず話をすすめる。
「これは今夜はじめて諸君にかぎり発表する最高の機密であるが、実は、わがイギリス軍は、最早《もはや》如何《いかん》ともすべからざる頽勢《たいせい》を一挙に輓回《ばんかい》せんがために、ここに極秘《ごくひ》の作戦を研究しようとしている。それは如何《いか》なる作戦であるか」
 と、ゴンゴラ大将は、そこで大いに気を持たせて、一座を見廻した。
(おや、十三の座席は、縁起《えんぎ》でもない)
 将軍は、ちょっと顔を曇らせたが、胸の前で十字を切って、
「それは外でもない。十三――いや、諸君、愕《おどろ》いてはいけない。吾輩《わがはい》は、ここに極秘の独本土上陸作戦《どくほんどじょうりくさくせん》を樹立《じゅりつ》しようと思う者である」
 一座は、俄《にわ》かにざわめいた。将軍のなかには愕いて、手にしていた盃《さかずき》を取落とす者もあり、嚥《の》み下ろしかけていた若鶏《わかどり》の肉を気管《きかん》の方へ送りこんで目を白黒する者もあった。ただ平然として色を変えず、飲み且《か》つ喰《くら》う手を休めなかったのは金博士ばかりだった。
「独本土上陸作戦、それは英《えい》本土上陸作戦の誤植《ごしょく》――いや誤言《ごごん》ではないか」
「否《いな》、断じて、独本土上陸作戦である」
「ほほっ、ゴンゴラ総指揮官の精神状態を医師に鑑定せしめる必要ありと思うが、如何に」
「いや、もう一つその前に、全国の空軍基地に対し、単座戦闘機《たんざせんとうき》にゴンゴラ将軍を搭乗《とうじょう》せしめざるよう厳重《げんじゅう》命令すべきである」
「その必要はあるまい。なぜといって、ゴン
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