んぐんばんば》の将軍も、これには胆《きも》を潰《つぶ》し、博士の一本脚――ではない実は超長靴を、絨毯《じゅうたん》の上に放り出した。博士は、それを無造作《むぞうさ》に拾いあげ、その中に手を入れると、やがて一枚の青写真を引張りだした。
「ゴンゴラ将軍。これをお目にかけよう」
 将軍は目をぱちくり。膝の上に青写真を展《ひろ》げて、二度びっくり。
「これは、素晴らしい新兵器だ。一人乗りの豆潜水艇《まめせんすいてい》のようだが……」
「将軍よ。これは初めて貴官と会見した日、宿に帰ってすぐさま設計した渡洋潜波艇《とようせんはてい》だ」
「ああ実に素晴らしい。さすがは金博士だ。これを如何《いか》に使うのですかな」
「これはつまり、一種の潜水艇だが、深くは沈まない。海面から、この艇《ふね》の背中が漸《ようや》く没《ぼっ》する位、つまり数字でいえば、波面《はめん》から二三十センチ下に潜《くぐ》り、それ以上は潜らない一人乗りの潜波艇だ」
「ふむ、ふむ」
「これを作ったわけは、如何なる防潜網《ぼうせんもう》も海面下二メートル乃至《ないし》十数メートル下に張ってあるから、普通の潜水艦艇では、突破は困難だ。また普通の潜水艦艇では、機雷《きらい》にぶっつけるかもしれないし、警報装置に引懸《ひっかか》って所在が知れるし、どうもよくない。そこでこの渡洋潜波艇は、海面とすれすれの浅い水中を快速で安全に突破するもので、つまり水上と防潜網との隙間《すきま》を狙《ねら》うものである」
「ほう、素晴らしいですなあ」
「しかし、これは試作しただけで、余は取り捨てたよ」
「おや、勿体《もったい》ない。使わないのですか」
「駄目じゃ。やっぱり相手方に知れていけないのじゃ。つまり海面と防潜網との隙間を行くものではあるが、こいつを何千何万|隻《せき》とぶっ放すと、彼岸《ひがん》に達するまでに、彼我《ひが》の水上艦艇に突き当るから、直《ただ》ちに警報を発せられてしまう。従ってドイツ本土上陸以前に、殲滅《せんめつ》のおそれがある。これはやめたよ」
「惜しいですなあ。すると、これは取りやめて、以来《いらい》自暴酒《やけざけ》というわけですか」
「とんでもない。余はイギリス人とは違うよ。余は既に、ちゃんと自信たっぶりの新兵器を作った」
「それは、どういう……」
「莫迦《ばか》。現行兵器の機密が、他人に洩《も》らせるものか」
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