を唇のところへ持って行き、黄色い液体を一口ぐっとのんで、後はしばらく唇と舌とをぴちゃぴちゃいわせた。
「……ふーん、どうもおかしい。燻精、お前のんでみろ」
「はい」
燻精が盃を唇のところへ持っていった。
「はい、のみました。実にこたえられない、いい酒ですなあ」
「そうかね。わしには、それほどに感じないが……」
「博士《せんせい》、それは先生のお身体の工合《ぐあい》ですよ。どこかどうかしていられるのです。糖分《とうぶん》が出ているとか、熱があるとかでしょう。私には、十分うまいですよ。やっぱりイギリス製のウィスキーだけありますねえ。これは英帝国《えいていこく》盛《さか》んなりし時代の生一本《きいっぽん》ですよ。間違いなしです」
「相当にうるさいね、君は」
「いや、酔払《よっぱら》ったんです。これもこの酒の芳醇《ほうじゅん》なる故《ゆえ》です。そこで先生、酒の実験はこのくらいにして、お約束ですから、かねがねお願いしてありました毒瓦斯研究の指導を早速《さっそく》お始めいただきたいのですが……」
「ふん、毒瓦斯研究の件か」
博士は何となく不機嫌《ふきげん》に、盃をがちゃんと台の上に置いて、
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