先生」
 と、こんどはまた先生になって、
「厳密にいえば、いわゆる義手というのは、手が、一本無くなったとか二本無くなったとかいう場合に、代わりにつけるのが義手である。拙者の発明のは、そうじゃない。二本の腕は、ちゃんと満足に揃っているが、その上にもう一本、機械的な腕をつけて、都合三本の腕を人間に持たせようというのだ。これまでに、世界のどこに人間に三本の腕を持たせようと考えたものがいるか。そんな話を聞いたことがない。公知文献があるなら、ここへ出してごらんなさい。そんなものは無いでしょうがね」
「なるほど、なるほど」
 余は、ついにそういわなければならない羽目になった。
 客は、余が納得したのを見ると、ぜひこれを至急出願してくれといって、余の前に、出願手数料及び特許局へ納付すべき出願印紙料として、封筒に入った金を置いた。そして、余が、その金は、まあ待ってくれというのを、彼は振り切るようにして余に押しつけて、帰っていった。
 さあ、金が入ったぞ。いくら置いていったかなと、余は、恥かしい次第ながら、その封筒に手をかけたとき、あわただしく入口の扉があいて、その客――田方堂十郎氏が舞い戻ってきた。

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