すというのが、この発明である――それでいいじゃありませんか。このアイデアだけで、結構書ける筈だ」
「ですが、いくらアイデアがあっても、発明なるものは、特許法第一条の条文にもあるごとく、工業的価値がなければ、取れないのです。夢みたいなことだが、人間の欲望そのものだとかを特許に取ることはできません」
「そんなことは、拙者もよく心得ている。今いった私のアイデアは、もちろん工業的価値があるじゃないですか。つまり、人間にもう一本、腕が殖えれば、仕事がはかどるのです。拙者の発明を実現した職工を使えば、従来の職工の一人半の仕事が出来る。してみれば、三百人の職工を使っている工場では、二百人に減らしても、同じ分量の製品が出来る」
 客は、いよいよ熱情を示した。
「いいえ、工業的価値というものは、そんなことをいうのではありません。つまり、発明の内容が、工業的でなければならないのです。もともと人間は、原則として腕が二本しか無いのに――それはもちろん、腕が三本あれば重宝なことは分っていますが、生れつき二本のものを、いくら三本に殖やしたいといっても、それは神様にでも相談するか、それとも百年後或いは千年後になって
前へ 次へ
全27ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング