という人が来ているのです。二百万円で買おうといっていますが……」
「ええッ、二百万円? 本当ですか、売れるにちがいないとは思っていたが、二百万円とは……」
 二百万円に売れたと聞いた瞬間に、発明者田方氏は、それまでの悠々たる落着きぶりを一時に失ってしまった。氏は大昂奮の態で、ベッドの上に跳ね起きると、大歓喜のあまり、首を右左へ強く振った。
 がちゃり!
 妙な音がしたと思ったら、とたんに、例の機械腕が、ぬっと前へ伸び、それから今度は内側へ折れ曲り、そして田方氏の首を、ぎゅっと締めつけてしまった。
「あっ、失敗《しま》った。おい、手を貸してくれ」
 田方氏の首から、三本目の腕をはなすのに、余と、アパートのかみさんとは、大骨を折らなければならなかった。
「やあ、くるしかった。二百万円と聞いたものじゃから、うれしさのあまり、つい間違って、首を振ったのです。あははは、あははは、機械というやつは、正直すぎて困るですな」
 余は、あらためて、氏の素晴らしい発明に対して、讃辞を呈した。そして、
「頭に、第三の腕をとりつけるとは、まったく画期的なご発明ですなあ」
 といえば、氏は、「なあに、その点は大
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