願以前ニ於テ、公知ニ属スルヲ以テ、特許法第一条ニ該当セザルモノト認ム』
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審査官は、千手観音を持ち出して、この出願を一蹴したのであった。
(千手観音を担ぎだすなんて、こいつは、いよいよ以て非常識だ。発明内容という奴が、あの審査官には、てんで分ってはいないのだ)
余は、天井を仰いで、慨歎これ久しゅうした。その揚句、余は、原稿紙をのべ、ペンをとりあげると、ただちにすらすらと、審査官へ申し送るべく次のような意見書を書いた。
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意見書
審査官ハ、本願拒絶ノ理由トシテ、奈良唐招提寺金堂ニ安置シ奉ル千手観音立像ガ四十臂ヲ有シ給フ事実ヲ指摘セラレタリ。然レドモ本願ノ要旨ハ、右ノ千手観音ノ構造トハ全ク別個ノ発明思想ノ上ニ樹ツモノナリ、何トナレバ、援用立像ニ於テハ、多数ノ腕ハ、悉《コトゴト》ク右又ハ左ノ腕関節ニ支持セラレ、之ヲ支持点トシテ運動スル如ク構成セラレタルニ対シ、本願発明ニ於テハ、問題ノ多腕ヲ腕関節ニ添架セザルコトヲ特徴トスルモノニシテ、本願特許請求範囲主文ニモ明記セル如ク「……機械腕ヲ、腕関節ノ運動ト無関係ナル如キ身体ノ部位ニ取付ケ
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