す。
それよりも、春夫をおどろかせたものがありました。それは、そのあたりの風景でありました。
「こんな島があるだろうか?」
青木は口蓋のすきまからここをのぞいて、これは島だといいました。なるほど、下は砂地です。そして椰子《やし》のような植物が生えております。小さいけれども、岩のようなものも見えます。海中から、いきなりこんなところにつれてこられたなら、なるほど、だれだってここは島だとおもうにちがいありません。
しかし島にしては、ちとおかしいことがあります。それは、水平線も見えなければ、あの青い海も見えないことです。頭の上を見ますと、すりガラスの天井があります。
これを島だというのは、どうでしょうか。一体ここはどうした場所なんでしょう。
「こら、少年。なぜ、じっとしていない。きょろきょろすることは許さん」
下士官のぺらぺらいう英語がわからないので、なおもきょろきょろしていたものですから、水兵がこわい顔をして、つかつかとそばへよってきました。
青木は、それと気がついて、春夫に注意をあたえ、彼を水兵からかばいました。
隊長らしい紳士《しんし》
これからどうなることかと、春夫少年が思っていると、下士官たちに命じて、二人の前後をまもらせ、前へ進めと、あるかせました。
どこへつれていかれるのでしょうか。
砂地のうえをすこしばかりあるいていくと、地下室の入口のようなものが見えてきました。
「ここからおりるんだ」
下士官は、先に下りました。
春夫たちも、そのあとについて、階段をおりていきました。
おりたところは、天井の低い、ちょうど軍艦や汽船の中と似たようなところでありました。このとき春夫は、足の下から、かすかではあるが、ごっとんごっとんと、エンジンが廻っているらしい震動が、ひびいてくるのを感じました。
「一体ここは、どこだろうか?」
春夫には、そのなぞをとくことが、たのしみになってきました。もしもこのとき春夫が、おどろいたり、あわてたりしていたら、このかすかなエンジンの音などは、もちろんききのがしたことでありましょう。
やがて青木学士と春夫とは、ある一室へつれこまれました。そこは、天井こそ低いけれど、たいへんぜいたくなかざりのある部屋でありました。正面には、りっぱな机があり、ふかふかした肘《ひじ》かけ椅子《いす》が一つおいてありましたが、その椅子には誰がすわるのでしょうか。
下士官が、扉《ドア》をひらいて、さらに奥にはいっていきました。やがて彼が出てきたときには、白い麻の背広服をきた一人の紳士をともなっていました。
からだの大きい、顔のたいへん赤く、鼻のとがった、そしてほそい口髭《くちひげ》のある、目のするどい人物でありました。その紳士が、例《れい》のふかふかした肘かけ椅子に、どっかり腰をおろしました。その様子から考えると、彼はどうやら隊長らしいのでありました。
春夫は、その隊長紳士が、なにをはじめるのかと、目をみはっていました。
すると、その隊長紳士は、ポケットから、ピストルを出して、机の上におきました。それから、青木学士と春夫を、ぐっとにらみつけ、
「ああ、ここでは、わしの命令にしたがうか、それとも、このピストルの弾丸《だんがん》をくらって死ぬか、二つのうち一つしかないのだ」
と、いやにおどかし文句をならべ、
「われわれは、いつでも、ほしいと思ったものを、かならず手に入れる力をもっている。お前たちは、小型潜水艇を、われわれの手にわたすまいとして、いくどもにげまわったが、もうこれからのちは、そんなむだなことはやめにするがいい。わかったか」
と、彼は、いやにいばっていいました。
すると青木学士は、からからと笑いだしました。
「あははは。なにをいうか。われわれ日本人のやることに、君たち外国人のさしずはうけないぞ。からいばりはやめて、なにかそっちで、おしえをうけたいことがあるなら、ぼくらの前にどうぞおしえてくださいと、すなおに頭を下げたがいい」
青木が、きっぱりいい放ったことばに、隊長紳士は顔をいっそう赤くそめて、ぶるぶるふるえ出しました。きあ、この場のおさまりは、どうなることでしょうか。
とりかえっこ
その怪外人は、じつにいばっています。二人にむかって、
「なにをいっても、もうだめだ。ここへはいったが最後、お前たちを生かすのも殺すのも、わしの自由だ。なんでもはいはいといわないと、ためにならないぞ」
といって、彼はピストルをふりまわします。
青木学士は、考えました。
自分ひとりだけならいいが、水上少年と一しょですから、あまりひどいことをされてはこまると思いました。またその外人も、いいだしたら、あとへひきそうもない様子ですから、ここはしばらく相手のいうとおりになって、あ
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