ッチ》開《ひら》き方《かた》、はじめ」
「はーい」
栄螺《さざえ》が、そろそろと蓋《ふた》をもちあげるように、いまこの豆潜水艇は、昇降口の蓋を、そろそろともちあげはじめました。学士は、軽業師《かるわざし》が梯子《はしご》の上へのぼったような恰好《かっこう》をしています。
「あっ、しめろ!」――とたんに学士の命令です。
春夫は、あわてて口蓋を、がたんとしめました。
「島だ、島だ。島へのしあげている。そして……」
学士は、上《うわ》ずったこえでさけびました。
ふしぎな島?
さすがの青木学士も、よほどおどろいたものとみえ、にぎりこぶしで、とんとんと自分の胸をたたくばかりで、しばらくはあとの言葉がつづけられませんでした。
これを横からみている春夫少年は、気が気ではありません。
「ねえ、青木さん。早く話をしてよ。いま、ぼくに口蓋《ハッチ》をあけさせて、青木さんは、いったい、なにを見たの?」
「し、島だ……」
「島を見ただけなら、なにもそんなにおどろくことはないじゃありませんか」
「と、ところが、あたり前じゃないんだ」
と、青木学士のことばは、すぐとぎれてしまいます。
「あたり前の島でないというと、どんな島?」
「それが、どうもへんなのだ。外国の水兵が立って番をしているんだ。しかも服装から見ると、アメリカの水兵なんだ。おどろくのもむりではないじゃないか」
青木学士は、ようやくあたり前にお話ができるようになりました。
「なんです、アメリカの水兵ぐらい。ちっとも、こわいことはないや」
「それはそうだけれど、その水兵はものものしく武装をしているのだよ。つけ剣をした銃をもっていた。防毒面をかぶっていた。おかしいではないか。日本の領土から、それほどとおくないところに、アメリカの水兵が、こんなものものしい姿をして番に立っている島があるのは、ふしぎすぎる話じゃないか」
青木学士にそういわれてみると、なるほどふしぎでもあり、へんです。日本の海岸をはなれて、船足《ふなあし》で、わずか二日か三日ぐらいのところに、そんな島があるとは、おかしな話です。
「グアム島じゃないかしら」
と、春夫少年が、思い出していいました。
「いいや、ちがう。グアム島へいくのには、もっと日数《ひかず》がかかるはずだ」
青木学士が、うちけしました。グアム島でないとすると、いよいよこれはふしぎなことです。一体ここはどこなのでしょう。
エンジンの音
とんとん、とん、とんとんととん。
今しめたばかりの口蓋《ハッチ》が、外からしきりにたたかれるのでした。春夫少年は、青木学士の顔を見上げて、
「青木さん、あの音は、なんですか」
といえば、青木学士は、しっといって、目をくるくるさせました。青木学士は、そのとんとんいう音に、じっと耳をすましています。
しばらくして、青木学士は春夫のうでをぐっとつかみ、
「あれはモールス符号《ふごう》だよ。国際通信の符号によって、あの音をとくと、『ここを、すぐあけろ。あけないと、外から焼き切るぞ』といっているのだ。焼き切られては困るぞ」
「焼き切るぞなんて、けしからんアメリカの水兵ですね」
「しかし、本当に焼き切られてしまっては、とりかえしがつかない。なぜといって、口蓋に大孔《おおあな》があくわけだから、そうなると、この豆潜水艇は、二度と水の中へもぐれなくなるわけだ。だから、しかたがない。しゃくにさわるが、艇を傷つけられてしまってもこまるから、口蓋をあけることにしよう」
「でも、口蓋をあけて外に出ると、アメリカ水兵のために、捕虜《ほりょ》みたいな目にあわされるのじゃない? そんなの、いやだなあ」
と、春夫は口蓋をあけるのをいやがりました。
「でも、しかたがないよ。ここは、そういうことにして、またなにかいいことを考えるよ。艇がこわされては、それこそどうすることもできない」
青木学士の顔は、くるしそうに見えました。そして春夫に代って、ついに口蓋をあけました。
とたんに、上から軽機関銃の口が、ぬっとこっちをのぞきこんだではありませんか。
「出ろ。抵抗すると撃ち殺すぞ」
英語で命令です。
青木学士も、むっとするし、春夫少年も、その様子をさとってしゃくにさわりました。
でも、どうすることもできないので、青木学士は春夫をうながして、昇降口をのぼり、とうとう豆潜水艇から外に出ました。
「おとなしくしているんだぞ。抵抗すると、一撃《ひとうち》だ」
いつの間にあつまったか、そういって号令をかけている目の青い下士官のほかに、武装をしたアメリカ水兵が六人ばかり、二人をとりまきました。
春夫は、べつにおそろしいとも、なんとも思いませんでした。日本の水兵さんにくらべると、アメリカの水兵なんか、たいへんだらしないものに見えま
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