とですきをみて、なんとか、にげだす方法を考えることにしようと決心しました。
そこで青木学士は、二三歩、怪外人の前へあるいていって、
「おい君。君がそんなにいうのは、あの豆潜水艇の中をしらべてみたが、どうしたら動いたり、浮いたり、沈んだりするのか、それがわからないので、僕たちをせめるのだろう。どうだ、あたったろう」
白服の怪外人は、それをきくと、うーんとうなって、また一そう顔をあかくし、下士官たちの方をふりむきました。
そこで、青木学士は、ここぞと思い、
「だから、わからないなら、わからないとはっきりいって、僕たちにおしえを乞《こ》えばいいじゃないか。礼をつくせば、僕だって、おしえてやらぬこともない。自分のよわ味をかくそうとして、いばりちらすなんて、よくないことだ」
こういわれて、さすがの怪外人も、こまった様子です。それからというものは、急に彼は態度をかえて、ことばをやわらげました。
「いや、わしも、べつだん、事をあららげたくはないのだ。君が、かくさずおしえてくれるというのなら、尊敬をもって、説明をきいてもいいと思っている」
なにが尊敬でしょう。自分たちに都合がいいとなると、どんな白々しいことでもいう彼らでありました。
「じゃあ、説明をしましょう。しかしその前に一つ、非常に不審《ふしん》なことがあるんだが、あなたにたずねて答えてくれますかね」
と青木学士がいいました。
「ははあ、交換条件というやつだな」
「まあ、そうですね。これはアメリカでもやることでしょう。承知してくれますね」
そういうと怪外人は、しばらく考えていましたが、やがてうなずいて、
「よろしい。一つだけ、君の質問に応じてもよろしい。ただし一つだけだよ」
青木学士は、一体なにを聞くつもりでしょうか。
とつぜんのさわぎ
「これは、ぜひ知っておきたいことですが――僕たちの命はないものだと知っているから、死に土産《みやげ》にきいておきたいと思うのだが、一体ここは、どこですか。島ですか、地下街ですか、それとも船ですか」
「ふーん、そんなことを知りたいというのか。そいつは、困ったね」
「さあ、答えてください。約束です」
「うむ、約束は約束だが……」
と、その怪外人はしばらく考えていましたが、やがて下士官をよんで、相談をしてから、
「よろしい。では話をしよう」
「それはありがとう」
「これは、わがアメリカが秘密に作った動く島なんだ」
「えっ、動く島ですか」
と、学士は、わざとおどろいた顔をしました。すると、かの怪外人は、ますますいい気になって、
「うふふん、どうだ、おどろいたろう。つまりこれは、浮きドックから思いついたもので、ふだんは海面下にかくれていて、エンジンでもって思う方向へ動けるのだ。なにか太平洋に――太平洋にかぎったことはないが、とにかく事があると、この動く島は潜水艦や飛行機の母艦《ぼかん》になるのだ。油もうんとつんでいる。修繕工場《しゅうぜんこうじょう》もある。食料も一ぱいある。実はこの動く島は、いま試験のため、こうして……」
と、ここまでいったとき、かの怪外人は、急に口をつぐみました。
それは、うしろにいた下士官が服をひっぱったからです。調子にのって、秘密のことまで、ぺらぺらといいそうになったので、おどろいて注意をしたのです。
「いや、むにゃむにゃむにゃ。もうこのへんでいいだろう」
「ありがとう」
青木学士は、礼をいいました。
彼は、心の中にこう思いました。
「どうもそうだと思ったが、やっぱりそうであった。これは、いかにもアメリカがやりそうな、ばかばかしい仕掛《しかけ》である。こういう動く島を、これからたくさんこしらえて、太平洋の方々に浮かべておくつもりなんだろう。もちろんそれは、太平洋に、戦争がおこる日に役立たせるつもりにちがいない。これは試験的のものだというから、アメリカでは、まだこの動く島をたくさんは、つくっていないと見える。とにかく、これはいいことをきいたわい」
青木学士は、急にいのちがおしくなりました。
いのちがおしいといっても、青木学士が急に卑怯《ひきょう》な人間になったのではありません。
そのわけは、だれもしらないこれだけのアメリカの秘密を知ったものですから、なんとかして、これを、祖国日本にしらせたいものと思ったのです。これなら、皆さんもきっと、満足に思われるでしょう。そうなのです。まったく、そのとおりなのでありました。
大手柄《おおてがら》
さて、皆さん。
これから青木学士が、水上少年と力をあわせて、どんな風にして、アメリカ製のこの動く島から逃げだすことができたかとお思いですか。
もちろん、二人は、アメリカ人たちの手からのがれて、出ていってしまいましたとも。そのかわり、二人はいのちを
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