れは、わがアメリカが秘密に作った動く島なんだ」
「えっ、動く島ですか」
 と、学士は、わざとおどろいた顔をしました。すると、かの怪外人は、ますますいい気になって、
「うふふん、どうだ、おどろいたろう。つまりこれは、浮きドックから思いついたもので、ふだんは海面下にかくれていて、エンジンでもって思う方向へ動けるのだ。なにか太平洋に――太平洋にかぎったことはないが、とにかく事があると、この動く島は潜水艦や飛行機の母艦《ぼかん》になるのだ。油もうんとつんでいる。修繕工場《しゅうぜんこうじょう》もある。食料も一ぱいある。実はこの動く島は、いま試験のため、こうして……」
 と、ここまでいったとき、かの怪外人は、急に口をつぐみました。
 それは、うしろにいた下士官が服をひっぱったからです。調子にのって、秘密のことまで、ぺらぺらといいそうになったので、おどろいて注意をしたのです。
「いや、むにゃむにゃむにゃ。もうこのへんでいいだろう」
「ありがとう」
 青木学士は、礼をいいました。
 彼は、心の中にこう思いました。
「どうもそうだと思ったが、やっぱりそうであった。これは、いかにもアメリカがやりそうな、ばかばかしい仕掛《しかけ》である。こういう動く島を、これからたくさんこしらえて、太平洋の方々に浮かべておくつもりなんだろう。もちろんそれは、太平洋に、戦争がおこる日に役立たせるつもりにちがいない。これは試験的のものだというから、アメリカでは、まだこの動く島をたくさんは、つくっていないと見える。とにかく、これはいいことをきいたわい」
 青木学士は、急にいのちがおしくなりました。
 いのちがおしいといっても、青木学士が急に卑怯《ひきょう》な人間になったのではありません。
 そのわけは、だれもしらないこれだけのアメリカの秘密を知ったものですから、なんとかして、これを、祖国日本にしらせたいものと思ったのです。これなら、皆さんもきっと、満足に思われるでしょう。そうなのです。まったく、そのとおりなのでありました。


   大手柄《おおてがら》


 さて、皆さん。
 これから青木学士が、水上少年と力をあわせて、どんな風にして、アメリカ製のこの動く島から逃げだすことができたかとお思いですか。
 もちろん、二人は、アメリカ人たちの手からのがれて、出ていってしまいましたとも。そのかわり、二人はいのちを
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