―はっ、そうでありますか。こっちの用意は出来ています。いつでも発射できます。はっ、すぐ攻撃しろと仰有《おっしゃ》るのですか。畏りました。では号令をかけます」
大佐は電話を置くと、隊員の方を向いて、
「気をつけ。――総員、戦闘準備。主砲発射|方《かた》用意!」
いよいよ悪魔のような巨砲が、わが日本帝国の心臓部めがけて砲撃を始めることとなった。五郎造はもう逆上《ぎゃくじょう》してしまった。いきなり兵をかきのけて、砲架《ほうか》によじのぼろうとした。
「こら、なにをする」
どーんと一発、傍にいる下士官のピストルから煙が出た。五郎造は棒のようになって、砲架から転げおちた。
恐怖の瞬間は迫る。――
しかしもうそれ以上、この物語をつづける必要はない。なぜなれば、その次の瞬間百雷が一時に落ちて砕《くだ》けるような大爆音がこの室に起った。亜鉛《トタン》屋根を抜けて真赤な焔の幕が舞い下りたと思った刹那《せつな》、砲身も兵も建物も、がーんばりばりと大空に吹きあげられてしまったから。
東京市民は、近きも遠きも、この時ならぬ空爆に屋外にとびだして、曇った雪空に何十丈ともしれぬ真黒な煙の柱がむくむく
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