本国民に敬意を表さんがため、記念塔を特に一等巡洋艦マール号に積載《せきさい》してお届けすることにしました」
 とは、駐日某大国大使パット氏が、新聞記者団を引見して、莞爾《かんじ》として語ったところであった。
 その新聞記事を読んだ国民は、更に某大国の厚意に感激した。
 しかし一部の識者は、逆に眉を顰《ひそ》めた。
「これはどうも変だね。某大国はこの頃になって急に日本を好意攻めにするじゃないか。忠魂記念塔を新調して贈ってくれるというのさえ大変なことだのに、その上、昨年建造したばかりの精鋭マール号をその荷船として派遣するなんて、ちと大袈裟《おおげさ》すぎると思わないか」
「時局がら新造艦マール号の性能試験をやる意味もあるんじゃないかね」
「そんなことなら、なにも極東まで来なくてもよさそうなものだ。これは何か、日本近海の測量を目的にしているのじゃないかな」
「そんなら何もマール号を煩《わずら》わさずとも、中国艦隊にやらせばいいことじゃないか」
「どうも分らん。しかしマール号の極東派遣をうっかり喜んでいられないということだけは分る」


   遣日艦マール号


 この遣日艦マール号は、十二月
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