憲はともかくも、帆村自身はなんとか再び例の秘密工事場に達する路を発見したいものと日夜そればかりを考究した。
 それから一週間ばかり後のことであった。
 帆村の熱情が神に通じたのか、彼はゆくりなくも重大なる事柄を思い出した。
 それは例の工事場で働いていたとき、その中ではないが、どこかその附近でもって、しきりに杙打《くいう》ち作業をやっているらしい地響《じひびき》を聞いたことであった。
 それについて、彼は今まですっかり忘れていた重大なる手懸りを発見したのだ。それはその杙打ちの音が、とんとんとんとんという具合になめらかに行かず、或るところで引懸《ひっかか》るようにとんとんとんととんという特徴のある音をたてることであった。歯車の歯の一つが欠けているのか、或はまたロープにくびたところでもあるのか、とにかく不整な響を発するのであった。
「こいつは締《し》めた。もっと早く気がつけばよかったんだが」
 帆村は躍りあがって悦《よろこ》んだ。彼はとんとんとんととんという不整音《ふせいおん》の地響を、どう利用するつもりであろうか。
 彼はすぐさま家を飛びだして、帝国大学の地震学教室に駈けつけた。そこで教授に面会して、携帯用の自記地震計の貸与方《たいよかた》を願いいでた。教授は事情を聞いて、快《こころよ》く教室にあるだけのものを貸してくれた上、数人の助手までつけてくれることになった。
 帆村の眼は、久しぶりに生々《いきいき》と輝いた。彼はこの自記地震計をもって、かのとんとんとんととんという不整な地響のする地点を探しあてるつもりだった。もちろんそれはまず某大国関係の建物のある地域から始めてゆくことに考えていたが、それにしても彼は、まず真先にこの地震計を据《す》えつけたい或る一つの場所を胸の中に秘めていた。


   東京要塞


 五郎造親方は、この頃になって、脱《のが》れられない自分の運命を悟《さと》るようになった。
 始めは、いい儲《もう》けばなしとばかりに、何の気もなく手をつけた仕事だったが、一週間も前から、彼はこの仕事の性質の容易ならぬことに気がついていた。身の危険をも感じないではなかったが、今となってはもうどうにもならない。一行六人は、牢獄のなかに拘禁《こうきん》されているのも同然の姿だった。
 大体の工事が済んで、左官の仕事はもうあまり要《い》らなくなった。それだのに、誰が頼
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