るで夢をみているような気がするのだ、これは、一杯のコーヒーだけれど、やっとごま化して、持ってきたのだよ。さあ、のんでくれ」
「や、ありがとう」
「ピート一等兵、待て。衛兵たるおれが、承知できないぞ。そういうことは、禁じられている」
 衛兵が、苦情をいった。軍規上、それにちがいないのである。
「お前にゃ、わからんといっているのだ。お前、気をきかせて、ちょっと、向うをむいていろ。コーヒーをのむ間、その辺を散歩してこい」
 そのへんを散歩してこいといっても、せまい氷の廊下が、ほんのちょっぴりついているだけである。散歩なんかできない。
「おい、衛兵。わしの腕の太いところをよく見てくれ」
 ピート一等兵は、肘《ひじ》をはり、衛兵にのしかかるように、もたれかかった。
「ピート、分っているよ。いいから、おれが向うをむいている間に、早いところ、囚人にコーヒーをのませろ」
 そういって、衛兵は、向うをむいた。
「ほう、やっと、気をきかせやがった。はじめから、そうすれば、世話はなかったんだ。ほら、黄いろい幽霊、コーヒーだぞ」
 コーヒーのコップは、ようやく、窓の間から沖島の手にわたされた。
「やあ、どうも
前へ 次へ
全117ページ中89ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング