れ」
 軍曹は、ピートの尻をうしろから、どんとつきあげた。ピートは、ばね仕掛《じかけ》の人形のように戦車の中に飛びのったが、そのときまたどどーん、どどーんと、相ついで小爆発が起って、船体がぐらぐらと、動揺した。
「あっ、軍曹どの。早く、こっちへ入って、戦車の扉をしめてください。いよいよ、これは浸水、まぬがれ難《がた》しです」
「そうか。あっ、ほんとだ。それ、そこから海水が流れこんでいたじゃないか、靴をぬいで、どんどんかいだせ」
「軍曹どの、扉を!」
「おお、そうだ。扉を閉めるぞ!」
 パイ軍曹は、力一杯、戦車の扉をばたんと閉じた。
 とたんに、戦車内には、電灯が、ぱっと点《つ》いた。自動式の点灯器がついていたのである。二人は、うれしそうに、あたりを見廻《みまわ》していたが、そのうちに二人の視線が、ぱっと合った。そのとき二人は、べつべつに、同じことを思い出した。
「おい、ピート一等兵。カールトン中尉どのの姿が、見えないじゃないか」
「そうです、軍曹どの。いま、私が申上げようと思ったところです。あなたは、なぜ、中尉を外に置いたまま、その扉をお閉めになったんですか」
「ふーん、失敗《しま》っ
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