ピート一等兵が、両腕に力をこめてハンドルをねじると、戦車の扉は、ついにぐーと、大きく開いた。
「あきました、あきました、軍曹どの」
「ばか。もう間にあわないや」
「えっ。どうしました」
「中尉どのは、昇天された。“生前に、一度でいいから、折角ここまで持ってきた地底戦車に乗ってみたい”といわれたのに、お前が戦車の扉をあけるのに手間どっているもんだから、ほら、もうこのとおり、天使になってしまわれた。ああ、さぞかし無念でしょう。中尉どの、これ一重《ひとえ》に、平生《へいぜい》ピート一等兵が、訓練に精神をうちこまなかったせいです」
「ねえ、軍曹どの。こうなりゃ、気は心でさあ。中尉どのは、息を引取られたかはしらないけれど、一度、この戦車の中へ入れて、座席につかせてあげては、どうでしょう」
「この野郎。中尉どのに、申しわけないと気にして、いやに中尉どのにサービスするじゃないか」
「軍曹どの、早く。ぐずぐずしていると、戦車の中に、海水が入ります。中の器械が、濡《ぬ》れてしまいますぜ」
 ピート一等兵が注意を発したので、パイ軍曹は、ぎくりとした。
「おい、早くしろ。浸水させちゃ駄目だ。お前から、先へ入
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