傷の隊長を、元気づけた。
 中尉は、間もなく気がついたものらしく、眼をかっと開いた。
「おお、パイに、ピートか。おれは……おれは、もう。……」
「おれはもう――おれはもう帰還されますか?」
「こら、ピート一等兵、だまれ。隊長どのは、これから遺産のことについて述べられるのだ。しずかにしろ」
「こら、二人とも。お前たちは、こここの場にのぞんで、恐怖のあまり、気、気がちがったな」
 パイとピートは、顔をみあわせて、うなずいた。もう何も喋《しゃべ》るまいぞという信号だった。この期《ご》にのぞんで、これ以上、隊長に気をつかわせることは、よくないと気がついたからである。
 中尉は、二人に脇の下を抱《かか》えられながら、はあはあと、苦しそうな息をした。しかし、さすがは軍人であった。その苦しい息の下からも、二人を相手にすることは忘れなかった。
「おい、両人。おれを抱えて、三番|船艙《せんそう》へつれていけ。そ、そして、おれのズボンの、左のポケットに、は、はいっている鍵で……その鍵で、扉をあけるんだ」
 パイ軍曹とピート一等兵は、また顔をみあわせて、うなずいた。
「こら、両人とも、そこにいないのか」
 
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