のものすごいことは、ちょっと形容のことばが見つからないくらいだ。
時は今、極地一帯は、白夜といって、夜になっても太陽が沈まないで、ぼんやり明るい光がさしているのであったが、とつぜん一陣の風とともに、空は、墨《すみ》をながしたように、まっくらになり、とたんに天から白いものがおちだしたかと思うと、まもなくあたりは白壁の中にぬりこめられたようになって、すぐ前にいる水夫の姿が、全《まった》く見えなくなり、階段がどこにあったか、ロープがどこに積んであったか、わけがわからなくなる。
帆《ほ》ばしらは、今にも折れそうに、ぎちぎち鳴りだすし、舷《ふなばた》を、小さく砕かれた流氷がまるで工場の蒸気ハンマーのように、はげしい音をたてて叩《たた》きつづけるのであった。
船長フリーマンは、船橋で、一等運転士のケリーと、顔を見合せた。
「おい、一等運転士。これは一体、どうするね」
「は、船長。風向きは幸い北西ですから、当分このままに流されていったら、どうでしょうか」
「まあ、そんなところだろうな。だが、新フリスコ港につくのがいつになるやら、見当がつかなくなった。とにかく、今すぐに、無電で新フリスコ港へ連絡
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