ことであるが――それでいいのかな)
達夫が、ふしぎそうに、深度計を見ているものだから、パイ軍曹もピート一等兵も、そばへよってきて、ともに深度計のうえをながめるのであった。そして、やはりふしぎだという顔をした。
「どうだね、パイ軍曹にピート一等兵。この深度零と出ているのを、どう考えるか」
と、速夫はきいた。
「さあ……」
「計器に水が入ったかナ」
二人の答は、はなはだ、なっていない。
「分らないなら、いってやろう。この地底戦車は、地上に出ているんだ」
と、速夫は、ずばりといった。
「えっ。地上に出ておりますか、あの、この戦車が……」
ピート一等兵が、眼を丸くした。
「ばかばかしい、深海の底におちこんでいたものが、いつの間にか地上にあがっているなんて、そんなことがあってたまるか」
と、パイ軍曹は、ピート一等兵を叱りつけた。そのとき、速夫がいった。
「そうだ。われわれの感じとしては、まだまだ深海の底にいるような気がする。しかし、この深度計は、たしかにこわれていないのだから、この上は、深度計が示していることを信ずるのが正しい。わけはわからないが、たしかに、この戦車は、地上に出ているのだ」
「そんなばかばかしい夢みたいなことが……」
「全く、全くだ!」
二人は、どっちも、速夫のことばを信用しない。
そこで速夫は、
「じゃ、僕は、この地底戦車の扉をあけて、外へ出てみるから……」
「ああ待ってもらいましょう。扉をあけりゃ、そこから水がどっと入ってきて、われわれはたちまちお陀仏《だぶつ》だ」
「じゃあ、助かりたくないのか」
「扉をあけりゃ、とたんに、死んでしまいますよ。助かるどころの話じゃありませんよ。これは、わしの永年の経験からいうのだ」
と、パイ軍曹は、なかなか自信あり気である。
意見は、こうして、二つに分れた。
一体、どっちが本当か?
そのときである。不意に、この戦車が、かたんと揺れた。戦車の中は地震のようである。
ところが、ふしぎにも、戦車は、ますます揺れだし、そしてますます傾くのであった。三名の者は、とても立っていられなかった。てんでに、器械や椅子につかまって、こらえている。まさか、地震でもなかろうに。
そのうちに、急に、動揺がとまった。
「おお、どうした!」
「おや、いつの間にか、天井と床とが、あべこべになって、戦車は、とうとうもとどおりにな
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