、それは自殺するようなものだから……。
「よし、わかった」
と、黄いろい幽霊は、おごそかに、いった。
「お前たち二人とも、わしが指揮をとることに不服はないのだな。それでは、ただちに命令する。二人とも、操縦席につけ!」
「うへッ」
パイ軍曹とピート一等兵とは、仕方なしに操縦席についた。
「前進せよ。針路は南東だ」
パイ軍曹は、いわれたとおり、戦車を南東へ向けて、出発させた。
エンジンは、ごうごうと音を発し戦車の中には、つよい反響が起った。
「おい、パイ軍曹。針路を、ちゃんと正しくなおせ。お前は、命令をきかないつもりか。きかないつもりなら、ここでお弁当代りに銃弾を五、六発、君の背中にお見舞い申そうか」
「いや、いや、いや、いや」
パイ軍曹は、急にハンドルを切って、黄いろい幽霊のいうとおり、地底戦車の針路を南東に向きをかえた。
「黄いろい幽霊閣下、只今我々は、ちゃんと南東に向け、前進中であります。でありますからして、銃弾をわしの背中にくらわせることは、御無用にねがいたいもので……」
と、うしろを向いて、おろおろごえで哀訴《あいそ》した。
「うしろを向いてはならん。それでは前進方向が、くるってくるではないか」
と、黄いろい幽霊は、パイ軍曹を、しかりとばした。
そのそばでは、ピート一等兵が、予備のハンドルを握って、ぶるぶるふるえている。
(おれは、ああいう風《ふう》に、ぽんぽん叱りつける幽霊の話を、きいたことがないぞ。南極地方には、かわった幽霊が出ると、豆本《まめほん》かなんかに、書いておいてくれればよかったのに……)
と、ピートは、どこまでも、彼を幽霊だと思っている様子だった。
一体、この黄いろい幽霊は、どこから来たのだろうか。もちろん、本当の幽霊ではない。
その謎は、この黄いろい幽霊が、戦車の隅に大きな袋の中に一ぱいつめた食料品をかくしていることによって、とかれるようだ。あの生々しい林檎は、この黄いろい幽霊が、わざと、床のうえにころがしたものであった。――彼は、密航者だった。
だが、なんと風がわりな密航者よ。わざわざ、南極地方へいく地底戦車の中にしのび入るなんて、ただ者ではない。彼は、一体なにをするつもりか。それはおいおいとわかってくるであろう。
秘密は御存知《ごぞんじ》
「おい、パイ軍曹。もっと地底戦車のスピードをあげろ」
黄いろ
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