ら、もういけないとおもっていられるから、だめなんです。どうせ、死ぬときは死ぬのですから、じっとしていて死ぬよりも、軍人らしく、この地底戦車で突進しながら、たおれた方が、軍人らしい最期《さいご》ではありませんか」
「なるほど、なあ」
パイ軍曹は、大きくうなずきながら、立ち上った。
「お前みたいな臆病者に、こっちが、はげまされようとは考えなかった。お前は、ほんとは、臆病者じゃなかったのかなあ」
パイ軍曹は、感心していった。そして、さっと、しせいを正しくすると、
「集まれ!」
と、号令をかけた。
ピート一等兵は、とつぜん、集まれをかけられて、びっくりしたが、すぐさま、かけ足をして、パイ軍曹の前に、不動のしせいをとった。
「番号!」
パイ軍曹は、大まじ目でいった。
「一チ!」
ピート一等兵は、きまりがわるくなった。二イ三ンとひとりで、もっとさきをいいたいくらいであった。
「異状ないか」
「はい、全員異状、ありません」
全員といっても、たった一人である。隊長をあわせても、たった二人だ。
「命令。地底戦車兵第……ええと、第百一連隊第二大隊第三中隊第四小隊のパイ分隊は、只今より出動する」
と、べら棒《ぼう》に大きな数をいって、
「戦車長は、パイ軍曹。操縦員は、ピート一等兵。第一番砲手はピート一等兵。第二番砲手はパイ軍曹。通信兵はパイ軍曹。機関員はパイ軍曹……」
どこまでいっても、要するに、たった二人であった。たいへん手が足《た》りないが、どうも仕方がない。
「全員部署につけ!」
そこでパイ軍曹は、一番高い戦車長席につき、ピート一等兵は、前の方の、操縦席についた。
「部署につきました」
「よし。では、出動! 針路《しんろ》、真南! 傾斜をなおしつつ、前進」
地中前進
ピート一等兵が、エンジンをかけた。車内は、たちまち、轟々《ごうごう》たる音響にとざされた。レバーをたおすと、地底戦車は、ごとんごとんと、前進をはじめたのであった。
パイ軍曹は、配電盤を睨《にら》んだり、戦車のゆく方を考えたり、なかなかいそがしかった。
「おい、ピート。エンジンの調子は、わるくないようだな」
軍曹は、送話器をひきよせて、いった。ピート一等兵の耳にくくりつけた高音受話器が、軍曹のこえのとおりに鳴った。
「エンジンの調子は、異状ありません」
ピート一等兵は、なかなか操
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