出入口の扉に近よった。
リント少将は、この中に取り残されてはたいへんと、沖島のあとを追って、彼の腰にだきつかんばかりである。
「リント少将閣下。日本人は、あくまで紳士的ですから、どうぞ御心配なく」
そういって、彼は、扉を、がらがらとあけた。外から、さっと、まぶしい光線が、はいってきた。
「さあ、少将閣下から、お先にお出《い》でください。この中に、あなたを閉じこめるようなペテンはいたしませんよ」
リント少将は、いわれるまでもなく、まっ先に、戦車の外にとび出した。彼は、そこで、さっそく部下をよびあつめ、このらんぼうきわまる黄いろい幽霊を、とりおさえさせるつもりだった。
だが、それは、少将の思いどおりには、いかなかった。
「あっ、ここは……」
リント少将は、そういって、呆然《ぼうぜん》と氷上にたって、あたりを眺めまわした。
あたりは、彼の部隊が屯《たむ》ろしているところとは、ちがう。まず、氷山のうえに、ひらひらとひるがえる日章旗が、リント少将をその場に、すくませてしまった。
「どうです、お分りですか。ここが、どこであるか」
「うむ」
「お分りのはずですが、私が、説明しましょうか。ここは、大和雪原です。西暦でいって千九百十二年、大日本帝国の白瀬《しらせ》中尉がロット海を南に進んで、この雪原に日章旗をたてたのです」
「大和雪原。それなら知っている。ああ、しかしいつの間に日章旗が……おお、そして、いつの間にあのように飛行機が……」
と、リント少将は、氷上に翼をやすめている飛行機の群を発見して、おどろきの声をあげた。
「いや、別におどろかれることは、ありますまい。ここは、わが大日本帝国の領土であるがゆえに、飛行機がいても、ふしぎではないのではありませんか。わが日本人は今や、世界第一の飛行機乗りになったのです。内地から、こんなところへ飛んでくるのは、なんでもありません。丁度《ちょうど》地底戦車については、貴国が世界一であるのと、似たようなものです。では、少将閣下、大和雪原の日章旗をどうぞお忘れなきように、そしてここで活躍をはじめようとする日本人たちを妨害なさらぬように、私から、とくにお願いいたします。さっきもありましたが、日本機が、弾丸を一発もうたないのに、アメリカ機が、機銃をうって、挑戦してくるなどということは、もうおやめください。そっちの御損ですからね」
「うーむ
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