。死んでもいわねえ。しかし日本国中の人間どもが泣《な》き面《つら》をすることは確かだ。もうとめてもとまらぬぞ。ざまアみやがれ」
 何事か大変なことが起りかけているのだ。三吉少年はハッと胸を衝《つ》かれた。岩がこんなになってもいわなければそれまでだ。
「よオし」
 と叫ぶと、三吉少年は井戸の蓋をあけて、その中へいきなり身を躍らせた。


   井戸を下りる三吉


 怪盗「岩」は、少年探偵三吉のためにうまく一杯喰わされ、逆《さか》さに梁《はり》に釣り下げられている癖《くせ》に、「いまに日本国中の人間どもが泣面《なきつら》をかくぞ、ざまア見やがれ」と大きなことをいっているのは、怪盗とはいえ、なんと面憎《つらにく》いことではないか。しかし日本国中の人間どもが、泣面をかくことなどという恐しいことが、本当に起りかけているのだろうか。一体それは、どんなことなのだろう?
 勇敢にも少年探偵は、井戸の中へ飛びこんだ。飛びこんでみると、果してそこには、一条の縄梯子が懸っていた。
「やッ、こんなものを使って、岩のやつ、登って来たんだナ」
 三吉はスルスルと、深い井戸の底の方へと下っていった。およそ四五メー
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