偵大辻又右衛門先生が出馬せられるより外に途がないわけじゃないか。つまりわし[#「わし」に傍点]が頼まれたことになるのじゃ。オホン」
大辻老はそこで大将のように反身《そりみ》になったが、テーブルの上の麦湯の壜をみると、忽《たちま》ちだらしのない顔になり、ひきよせるなり、馬のような腹に波をうたせて、ガブガブと一滴のこらず呑んでしまった。
「ああ、うまい。ここの井戸は深いせいか、実によく冷えるなア」
三吉にはそれも耳に入らぬらしく、折悪しく帆村名探偵の海外出張中なのを慨《なげ》いていた。
怪盗「岩」
「岩が帰ってくるそうじゃ」
そういったのは警視総監の千葉八雲《ちばやぐも》閣下《かっか》だった。
「なに、岩が、でございますか」
とバネじかけのように椅子から飛び上ったのは大江山《おおえやま》捜査課長だった。それほど驚いたのも無理ではなかった。岩というのは、不死身《ふじみ》といわれる恐《おそろ》しい強盗紳士だ。彼は下町の大きい機械工場に働いていた技師だが、いつからともなく強盗を稼《かせ》ぐようになっていた。頭がいいので、やることにソツがなく、ことに得意な機械の知識を悪用して
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