めていた岩の子分は、サッと顔をあげた。入口の上につけた赤い電灯が、気味わるく点滅している――
 コツ、コツ、コツコツ。
「うッ、親分だッ」
「親分は無事だったぞ」
 子分たちは兎のように席から躍り出て、扉《ドア》を開いた。はたして外には、岩が、スックと立っていた。
「お帰りなせえ」「お帰りなせえ」
 岩は黙々《もくもく》として室に入った。右手を深くポケットに入れたまま、大変疲れている様子だ。
「親分、首尾は?」
 奥の大椅子に身体を埋めた岩は、子分の声にハッと眼を開いた。
「百万弗は正に手に入れた。だが――」と岩は声を曇らせた。
「おれも相当な代価を払ってきた」
「なんですって、親分?」
「こ、これを見ろ!」
 岩は痛そうに歯を食いしばって、右手をポケットから静かに出した。
「おッ、お親分、手首をどうしたんです」
 手首が見えない。右の手首の形はなく、ゴム布《ぎれ》のようなものでグルグル捲《ま》いてある。
「正金銀行の金庫の底に、爆弾が仕掛けてあったのだ。……そいつに手首を吹き飛ばされたのさ」
 怪盗にしては、百万弗の代償にしろ、たいへん不出来ではないか。


   恐しき相手



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