おお、あれか」
 見ると、やはり海の方角に、煙突の煙にしては、すこし量が多すぎる真黒な煙がムクムクともちあがっている。
「はてな、おい、通信員。横浜警察をラジオで呼び出して、尋《たず》ねてみろ」
 ジイ、ジイ、ジイ。
 横浜の警察はすぐに呼び出された。
「おお、こっちは警視庁の特別警察隊。お尋ねしますが、海の方角に、煙が立っていますが、あれは何です」
「さあ、まだ報告が来ていませんが――」といって横浜の方では答えたが「ああ、ちょっと待って下さい。今報告が入りました。あッ大変です。たいへんたいへん」
「たいへんとは?」
「港内に碇泊《ていはく》している例のエンプレス号が突然火を出したのです。原因不明ですが、火の手はますます熾《さか》んです。この上は、あの百万|弗《ドル》の金貨をおろさにゃなりますまい」
 ああ、エンプレス号の怪火。果してそれは過失か、それとも……。


   一度危機は去る


「さあ急げ、全速力だ!」
 大江山課長は、車上に突立《つった》って叫んだ。自動車は、驀進《ばくしん》する――
「もっと速力を出せ。出せといったら出さんかッ」
 課長は満面を朱《しゅ》に染めて呶鳴
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