よ」
と三吉は真鍋先生の方に向き、
「先生と知らなかったもんで、御免なさい。今私達の追掛けているのは向うにゆく十台の大貨物自動車なんです。あれは――」
「なアんだ、あのトラックかい」先生は眼をパチクリして、「あれなら追掛けてもよろしい」
「へえー」
二人はむき[#「むき」に傍点]になって、貨物自動車隊を見失うまいとした。暁の街をスピードを早めて追い掛けたが、こっちはボロ自動車であるから、ともすれば遅《おく》れ勝《がち》である。
敵は深川を離れて京橋から日本橋を経て神田に入り、本郷《ほんごう》の通をグングン進んで行った。そして、やがて速力をおとして入りこんだのが、何と理科大学――。
「ヤレヤレ帰って来たかな」
真鍋先生は起き上った。
「なアーンだ」
三吉と大辻とは声を合わせて舌打をした。意地の悪い先生ではある。といってこれで疑問が消えたわけではない。
エンプレス号の金貨
「金貨百万ドルを積んだエンプレス号、東京湾沖に沈没す。奇怪なる船底の大穴」
またまた大事件だ。
このニュースが出たのは、あの日の午前中だった。お昼ごろに、また驚くべき追加ニュースが出た。
「金貨百万ドル、行方不明となる。潜水夫の報告に係官驚く。魔の海東京湾。国際問題起らんか」
イヤ大変だ。
地底機関車が海底に沈んで、それがどこかに見えなくなったという怪事件から、まだ幾日も経っていないのに、又同じような場所で大事件が持ち上った。警視庁の狼狽《ろうばい》ぶりが目に見えるようだ。
一体誰がやったのだ。どうしてやったのだ。
理科大学の広い校庭では一面に地盛《じもり》をしている。例の十台の貨物自動車隊から下《おろ》した夥《おびただ》しい土であった。
この土は月島から掘ってきたもの。真鍋先生はこの地盛を幸《さいわい》に月島へ出かけては、地質の研究に文字通り寝食を忘れている有様だ。金塊事件のニュースが出たとき、三吉と大辻はまた理科大学で地盛を見ていた。二人は号外を両方から引張り合った。
「僕の思っていたとおりの大事件だ。これからはもっともっと凄いことがあると思うよ」
「これは大変なことになった。帆村先生にフランスから帰って頂くことにしてはどうかな」
大辻は岩の靴型を握る手を震わしながら、いよいよ本音の弱音《よわね》を吐《は》きだした。
「驚くなんてみっともないよ」
と三吉は大きい男をたしなめた。「僕たちは警視庁の連中よりは早く、事件の正体に向きあっているのだよ」
「事件の正体?」
「そうだ。これを御覧よ――」
そういって三吉は地盛をした一|箇所《かしょ》に鋭い指を向けた。ああ、一体そこにはどんなに驚くべき事件の正体が暴露していたろうか。
怪盗の怪電話
世界に一つしか無い地底機関車の行方《ゆくえ》も判らねば、怪盗「岩」の行方も知れない。大辻珍探偵は、岩と月島海岸で言葉を交《か》わしたが、気がつかなかった。駈けつけた少年探偵三浦三吉も口惜しがったが、すべてはもう後の祭だった。
岩は地の底へ巧みに作られた自分の巣窟《そうくつ》に帰ると、いきなり部下を集めて下した大命令! さてどんな大事件が、「岩」の手によってこれから捲《ま》き起されようとしているのだろうか。
非常な早朝だのに、警視庁の大江山捜査課長のところへ、ジリジリと電話がかかってきた。
「ああ、もしもし。大江山ですが……」
「大江山さんだね」
と相手は横柄《おうへい》な口のきき方をした。
「大汽船エンプレス号が百万|弗《ドル》の金貨を積んで横浜に入港しているが、あれは拙者《せっしゃ》が頂戴するから、悪く思うなよ」
「なッ、なにをいう。何物かッ貴様は――」
「岩だ!」電話はハタと切れた。
理科大学の盛土《もりつち》
「岩だ。それ――」
と、命令一下、かねてこんなこともあろうかと用意して待っていた特別警察隊は、ラジオを備えた警視庁自慢の大型追跡自動車で、京浜《けいひん》国道を砲弾のように疾走《しっそう》して行った。
そのころ三吉と大辻とは、理科大学の新築場《しんちくじょう》に立って首をひねっていた。
月島海岸から十台のトラック隊を追跡して行った二人は、思いがけなくも、本郷の理科大学の中へ着いたので驚いたわけだった。
そして、そこまで送ってくれた自動車の中から、一人の怪人物がノコノコおりてきたが、これがいま鉱物学者として世界に響いている、真鍋博士だったので、二度びっくりだった。博士はスタスタと研究室へ入ってしまった。
(二度あることは、きっと三度ある)
と諺《ことわざ》にいうとおり、二人はとうとう三度目のびっくりにぶつからねばならなかった。
「この盛土はおかしいね」と三吉少年は叫んだ。
「そういえばおかしいね」と大辻も目をショボショボさせて叫ん
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