トルも下ったときのことだった。突然に彼の頬を、一陣の生温《なまあたたか》い風が、スーッと撫《な》でた。
「おやッ」
袋の鼠か?
(なんだろう?)
三吉は懐中電灯をパッと照らしてみた。するとそこには真四角な窓みたいなものが、壁のところにポカリと開いていた。生温い風が、その窓からスーッと吹いてきた。
(どこから風が上ってくるのだろう。この窓の下には、なにがあるのだろう?)しかしグズグズしている場合ではない!
「よオし、突進だッ」
三吉は自分で自分を励《はげ》ますように叫んで、その窓の中へ入っていった。内部には誰が拵《こしら》えたのか階段があった。少年は、薄明るい懐中電灯の光を頼りに、ゴム毬《まり》のようにトントンと階段を下っていった。
階段は間もなく尽《つ》きた。そしてそこには、重い鉄の扉が行手を遮《さえぎ》っていた。
そのとき突然、頭上からピカリと強い光が閃《ひらめ》いた。
「おッ」
と三吉は身を縮めると共に、上を見上げた。ああ、どうしたというんだろう。さっき三吉の潜りこんだ窓が、真四角にポッカリ明るくなっている。そしてその窓口から、しきりに三吉の方を窺《うかが》っている一つの恐しい顔! それは紛れもなく「岩」ではないか。しきりに懐中電灯をふっているところを見ると、まだ三吉を見つけていないらしい。道は一本筋の、しかも行き止りの袋路《ふくろじ》だ。見つけられたが最後、三吉の生命はないものと思わねばならぬ。
一番下の階段に、少年の身体が僅かに隠れる程の、隙間があった。三吉は、まるで兎が穴へ潜っているような恰好で、その蔭にうつ伏《ぶ》していた。
ギギーッ。三吉の耳許で、突然、金属の擦《す》れ合う音がした。はッと驚いて、頭をあげてみると、いままで岸壁のように揺《ゆ》らぎもしなかった鉄扉《てっぴ》が、すこしずつ手前の方へ開《あ》いてくるのだった。
九死に一生!
扉は重いと見えて、ほんの少しずつ拡がっていった。
「お、親分?」
と三吉の頭の上で、太い声がした。
(もう駄目だッ)
と三吉は思った。敵も敵、岩の子分である。上からは岩が恐しい眼を剥《む》き、下からは逞《たくま》しい子分が腕を鳴らしているのである。三吉の進退は、まったく谷《きわ》まってしまったのであった。
だがしかし、さすがは少年探偵として、師の帆村荘六から折紙《おりがみ
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