り得るというのであった。
 金博士は、大自然力《だいしぜんりょく》を向うへ廻してのこの極めて困難なる大事業をわずかの燻製の魚類《ぎょるい》を代償に簡単に引受けてしまったのであった。
 博士は一体成算があるのであろうか。
 いや、これまでの博士のひととなりを知っているわれらは、今度も博士が十分やりとげる自信があって引受けたものと信ずる。それにしても報酬があまりに粗末すぎるようでもあるが、元来《がんらい》博士は黄金の価値について無頓著《むとんちゃく》で、只《ただ》マージナル・ユーティリテーの大なるものこそ欲《ほ》しけれ、という極めて淡白なる性格の人だった。それはそれとして博士は今いかなる計画を胸に描いているのであろうか。
 髭の宰相の狙う最後の機会なるものは、シベリアから雪と氷を永遠に追払うことに繋《つな》がれてある。
 いかなる学者が聞いても、とたんに気絶するであろうと思われるこの難事を博士はとたんに胸のうちに解決をつけていたのだ。
「地軸《ちじく》を廻せば、そんなことは自由自在に出来るじゃないか」
 地軸を廻すとは?
 地球は地軸を中心として、反時計式に回転している。
 その地軸は、二
前へ 次へ
全22ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング