いです」
「いや、ルーブル紙幣の名を聞いただけで、寒気《さむけ》がしてぶるぶると慄《ふる》えが出る。そんなものを紙幣で頂《いただ》こうなど毛頭《もうとう》思っとらん」
「では何を……。あ、そうそう、カムチャッカでやっとります燻製《くんせい》の鰊《にしん》に燻製の鮭《さけ》は、いかがさまで……」
「それだ。初めから、そういう匂いがしていた。燻製の本場ものはさぞうまいことじゃろう。そっちから申込みの仕事は、その燻製が届いてから始めるから、仕事を早く始めて貰いたかったら、一日も早く現品《げんぴん》をわしのところへ届けなさい。では失礼」
 というと、金博士の姿は忽然《こつねん》としてその場から消えた。日本人に見せたら、これはきっと金博士が忍術を使ったと思うだろうが、実はさにあらず、例の偏光硝子《へんこうガラス》で作った衝立《ついたて》の中に、博士が入ったためで、博士の方からはネルスキーの方が見えるが、ネルスキーの方からは博士が絶対に見えないのであった。


     3


 シベリアから雪と氷とを永遠に追放して呉れさえすれば、今次戦《こんじせん》に惨敗《ざんぱい》をくらった政権が猛然と立ち直
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